若いアスリートにレジスタンストレーニングは必要か?― その真実とメリット

コーチング

レジスタンストレーニングは子どもに適しているのか?

「レジスタンストレーニング」と「子ども」という言葉を同じ文で使うと、多くの人が驚いた顔をするでしょう。確かに、このテーマは長年にわたり議論の的となってきました[5,16]。特に英国では、レジスタンストレーニングが若年層のアスリートに有益であるという考えは、これまで広く受け入れられていませんでした。しかし最近になり、レジスタンストレーニングは単なる筋肉増強の手段ではなく、健康やスポーツパフォーマンスの向上に役立つことが認識されつつあります[1,7,9,14]。

成人のアスリートがレジスタンストレーニングによって競技力を向上させることができるのなら、子どもはどうでしょうか? 若いアスリートにとってもトレーニングを導入する価値はあるのか、それとも時すでに遅しなのか?この疑問を解決するために、11歳以上の若いアスリートを対象に、レジスタンストレーニングのメリットと安全性について探っていきます。

そこで本記事では、

✔ レジスタンストレーニングの正しい定義

✔ 若いアスリートにとってのメリット

✔ 過去の誤解と最新の研究結果

について詳しく解説していきます。

レジスタンストレーニングとは?

「レジスタンストレーニング」と聞くと、筋骨隆々のアスリートが鏡の前でダンベルを持ち上げる姿を思い浮かべるかもしれません。しかし、実際には 筋肉に負荷(抵抗)をかけることで、筋力やパワーを向上させるトレーニング全般を指します

レジスタンストレーニングには、さまざまな方法があります。

自重トレーニング(シットアップ、プッシュアップ、ディップス など)

レジスタンスバンド(チューブを使った負荷トレーニング)

フリーウェイト(ダンベルやバーベルを使ったトレーニング)

マシントレーニング(ジムのウェイトマシンを活用)

さらに、オリンピックリフティングの基本動作を軽い重量で正しいフォームで行うことで、子どもたちのバランス能力、固有受容感覚、筋力、パワーの向上に役立つ ことも知られています。

ただし、最大重量を扱うオリンピックリフティングやパワーリフティングのような競技用トレーニングとは異なります。特に若年層のトレーニングでは、最大重量でのリフトを行うべきではありません。安全性を確保しながら、段階的に筋力向上を目指すことが大切です。

なぜレジスタンストレーニングは誤解されてきたのか?

レジスタンストレーニングが 若年層にとって危険であり、筋力やパワーの向上にはほとんど役立たない という誤った認識が広まったのは、研究コミュニティの影響が大きいと考えられます。

この誤解の発端は、1960年代の東ヨーロッパで発表された研究にあります。ある研究では、等尺性レジスタンストレーニング(アイソメトリックトレーニング) を実施した後の腰部筋のトレーニング効果を調査しましたが、筋力の大幅な向上は見られなかったと報告されました。また、その後の研究でも、脚や腕の筋力向上において顕著な成果は得られなかった ことが指摘されました[18]。

このような結果が次第に支持を集め、「レジスタンストレーニングは若年層には効果がない」 という考えが定着しました。しかし、多くの場合、後続の研究はこれら初期研究の 制約や限界を踏まえずに、誤った結論を補強する形で進められました。結果として、若年層のレジスタンストレーニングに関する否定的な意見が広まり、長年にわたり正しい評価がなされないままとなってしまったのです。

なぜ初期の研究では筋力向上の証拠が得られなかったのか?

1960年代の研究では、軽い負荷のみを使用していたため、漸進的過負荷(プログレッシブオーバーロード)が適用されていなかった ことが大きな要因です。漸進的過負荷とは、トレーニング強度を段階的に上げることで、筋力やパワーを向上させるための基本的な原則 です。これが欠如していたため、トレーニングによる目立った筋力の向上は見られませんでした

さらに、当時の研究は 観察期間が短すぎた ことも問題でした。トレーニングの成果を評価するには一定の期間が必要ですが、短期間のデータだけでは有意な変化を確認するのは難しかったのです。

現代の研究が示す「適切なレジスタンストレーニング」の重要性

現在では、若年アスリートが筋力を向上させるためには、トレーニング方法、強度、ボリューム、期間を最適に調整することが不可欠である ことが明らかになっています。近年の研究によって、適切なレジスタンストレーニングを取り入れれば、思春期前の子どもでも有意な筋力向上が可能である という強力な証拠が示されています[5,10,11]。

例えば、1986年の研究 では、9〜10歳の男子がレジスタンストレーニングを行った結果、肘と膝の屈曲・伸展の筋力が有意に向上した ことが報告されました[11]。

また、20週間のプログレッシブオーバーロード(漸進的過負荷)を取り入れた研究では、肘の屈曲筋群と膝の伸展筋群において以下のような有意な筋力向上が確認されました[12]

1RM(最大反復回数)ダブルレッグプレス:22%向上

最大随意等速性肘屈曲:26%向上

最大随意等速性膝伸展:21%向上

近年の研究により、適切に設計されたレジスタンストレーニングを行えば、思春期前の若年層でも筋力向上が可能である ことが証明されています。初期の研究で成果が得られなかったのは、トレーニング負荷が低すぎたことと、観察期間が短かったことが主な原因でした。しかし、現代のトレーニング理論を活用すれば、若年アスリートにとってレジスタンストレーニングは非常に効果的な手段である という事実が明らかになっています。

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筋力向上の鍵は「神経系」にある

近年の研究により、レジスタンストレーニングが若年アスリートのトレーニングに有効なツールであることが明らかになっています。しかし、「まだ思春期を迎えておらず、テストステロン(筋肥大を促すホルモン)が十分に分泌されていない子どもたちが、どのようにして筋力を向上させるのか?」という疑問が浮かぶかもしれません。

一般的に、筋力の向上には筋肥大が伴う と考えられています。そして、筋肥大は体内のテストステロンの量によって大きく影響を受ける ことが分かっています。初期の研究では、若年アスリートは筋肉のサイズがほとんど増加しない ことが報告されていました。そのため、「筋肥大が起こらないのであれば、レジスタンストレーニングは子どもにとってあまり意味がないのでは?」と結論づけられていました。

しかし、最新の研究では、筋肥大が起こらなくても筋力は向上する ことが明らかになっています。つまり、筋力向上の鍵は「神経系の発達」にある ということです。

子どもが筋力を向上させるメカニズムとは?

初期の研究では、「子どもは大人のミニチュア版ではなく、筋力向上のメカニズムが異なる可能性がある」という点が見落とされていました。思春期前の子どもたちはテストステロンの分泌が少なく、ホルモンの影響による筋肥大が期待できないにもかかわらず、なぜ筋力が向上するのか? これは長らく議論の対象でした。

興味深いことに、女子選手もレジスタンストレーニングを行うことで筋力が向上する ことが分かっています。女性はもともとテストステロンの分泌量が少ないため、この事実は筋力向上の要因がホルモン以外にあることを示唆しています。

神経系の発達が筋力向上の鍵

研究者たちは、筋力向上の要因として神経系の発達 に着目しました。証拠として、筋力は神経系の発達に比例して向上する ことが明らかになっています。特に、次の3つの要素が筋力の向上に大きく関与していると考えられています。

1. 運動スキルの向上(Motor Skill Coordination)

•正しい動作を習得することで、より効率的に力を発揮できるようになる。

2. 運動単位の活性化の増加(Motor Unit Activation)

•筋肉を動かす神経の働きが活発になり、より多くの筋線維が動員される。

3. 未解明の神経適応(Undetermined Neurological Adaptations)

•まだ完全には解明されていないが、神経系の適応が筋力向上に影響している可能性がある。

科学的証拠:レジスタンストレーニングと神経適応

最新の研究では、思春期前の少年を対象に、レジスタンストレーニングが運動単位の活性化(MUA: Motor Unit Activation)に与える影響 を調査しました。その結果、以下のような成果が確認されました。

最初の10週間 のトレーニング後、肘の屈筋(上腕二頭筋など)のMUAが 9% 増加し、膝伸筋(大腿四頭筋など)のMUAが 12% 増加。

その後の10週間 では、より緩やかではあるものの、さらなるMUAの増加が記録された。

この研究結果は、神経系の発達が筋力向上に大きく関与している という理論を裏付けています。

さらに、多関節エクササイズ(スクワットやクリーンなど)を取り入れると、単関節エクササイズ(アイソメトリックな肘屈曲や膝伸展)よりも筋力向上の効果が高い ことも示されています。これは、特定の動作に特化した運動スキルの向上が、より大きな神経適応をもたらすためと考えられています。

速く泳げるか? 高く跳べるか? 強く打てるか?

ラボでの実験結果が示すように、レジスタンストレーニングは若年アスリートの筋力を向上させ、その主な要因は神経系の適応にある ことが明らかになっています。しかし、この筋力向上が実際の競技パフォーマンスにどれほどの影響を与えるのか、疑問に思う方もいるかもしれません。

一般的に、筋力が強くなれば、跳躍力が上がり、走るスピードが増し、ボールをより強く打てるようになる と言われています。ネットボール、ラグビー、陸上競技、テニス、クリケットなど、多くのスポーツでは、複雑な多関節運動を伴う動作が求められるため、筋力とパワーは不可欠な要素です。

これまでの研究によると、適切なレジスタンストレーニングは、思春期前の少年少女においても、筋力だけでなく泳ぐスピードを向上させる可能性がある ことが示唆されています[2]。また、間接的な証拠ではありますが、筋力の向上が垂直跳び、スイムスピード、ランニングスピードの向上に寄与することも報告されています[15]。

10年前と現在のアスリートを比較してみると…

もし、レジスタンストレーニングの効果にまだ確信が持てないなら、10年前のトップアスリートと現在の競技者を比べてみてください。現代の競技者は、より大きく、より強く、より速くなっています。

一部の人は、こうした進化を違法な手段によるものだと疑うかもしれません。しかし、より洞察力のある人なら、レジスタンストレーニングがアスリートのパフォーマンス向上に重要な役割を果たしている ことを認識するでしょう。実際、近年では多くのハイパフォーマンスチームが、選手のパフォーマンス向上のためにレジスタンストレーニングに多大な投資を行っています。

若年アスリートに関する直接的な研究はまだ限られていますが、適切なレジスタンストレーニングを実施すれば、大人のアスリートと同様に競技パフォーマンスが向上する可能性は十分にある と考えられます。

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「怪我のリスクは? 若年アスリートにレジスタンストレーニングは安全なのか?」

「成長期の子どもたちにレジスタンストレーニングは本当に適しているのか?」

この疑問は、多くの保護者や指導者が抱くものです。

1987年、米国消費者製品安全委員会(US Consumer Product Safety Commission)は、レジスタンストレーニングが子どもにとって危険な活動である という報告を発表しました[1]。この報告では、0〜14歳の子どもがレジスタンストレーニング関連の怪我を 8,543件 も負ったことが示されており、その怪我の程度は 捻挫や筋損傷(ストレイン)から骨折まで 幅広いものでした。さらに、その 約40%が家庭での無監督のトレーニング によるものであったとされています。

スポーツ全体で見たときのリスクは?

この報告を聞くと、「やはりレジスタンストレーニングは危険なのでは?」と考えてしまうかもしれません。しかし、同じく若年アスリートのスポーツ関連の怪我について調査した研究では、学校で実施される22のスポーツの中で、レジスタンストレーニングが引き起こした怪我の数はわずか7件(全体637件中) であり、怪我の発生率は 17番目 という低い順位でした[17]。

結論:怪我のリスクはトレーニング環境次第

このデータから言えるのは、レジスタンストレーニング自体が危険なのではなく、無計画で監督のない環境での実施が問題である ということです。

監督なしで子どもが自宅で重りを扱えば、怪我のリスクは確かに高まります。 しかし、適切な指導者のもと、安全なプログラムに従ってトレーニングを行えば、怪我のリスクは他のスポーツと変わらないレベルに抑えられる のです。

つまり、レジスタンストレーニングの安全性は、トレーニングの環境と指導の質によって決まる ということ。

適切なプログラムを用意し、トレーナーやコーチがしっかりと指導すれば、若年アスリートにとっても有益なトレーニング方法となり得るのです。

成長期の骨格とレジスタンストレーニング:本当にリスクはあるのか?

成長期のアスリートにレジスタンストレーニングを取り入れると、骨や関節に悪影響があるのでは?

こうした懸念は多くの保護者や指導者の間で根強くあります。特に、成長過程にある軟骨や骨、関節、腱に過度な負荷をかけることで、損傷を引き起こす可能性が指摘されています[14]。また、成長軟骨(グロースプレート)へのダメージが身長の伸びを妨げるのではないか、という不安もよく聞かれます。

さらに、骨格が未成熟な小・中学生にとって、特に脊椎や関節部への負担が問題になるのでは?という声もあります。たしかに、急激な負荷をかけることはリスクになります。しかし、適切な指導とプログラムがあれば、これらのリスクは大幅に低減できるのです。

本当にレジスタンストレーニングは骨に悪影響を与えるのか?

実際の研究では、スポーツによる筋骨格系の損傷は非常にまれであることが分かっています。特に、適切な指導のもとで行われるレジスタンストレーニングは、骨の成長や発達に悪影響を与えないことが多くの研究で示されています[1]。

むしろ、多くのケースでは、無理なオーバーヘッドリフト(頭上への高重量の挙上)や、誤ったフォームでのトレーニングが怪我の原因になっています。計画的なレジスタンストレーニングそのものが直接の問題となることは少なく、安全な方法で行えば骨の強度を高め、筋力を向上させるというプラスの効果が期待できます。

レジスタンストレーニングの安全な導入ガイドライン

成長期のアスリートにレジスタンストレーニングを取り入れる際には、以下のポイントを守ることで、リスクを最小限に抑えながら効果的にトレーニングを行うことができます。

若い運動選手:

  • トレーニングプログラムを開始する前に医師による健康診断を受けるべきである
  • 指導を受け入れるだけの成熟度があるべきである
  • プログラムに参加したいと思っているべきである
  • 主たるスポーツの基本的な運動能力を備えているべきである
  • ウェイトリフティング中は正しいフォームを維持すべきである
  • 競争ではなく、個々の成長を目的とするべきである

コーチとしては、次のようなことが必要です:

  • トレーニングセッション中はしっかりと監督するべきである
  • トレーニングは多様性のある内容であるべきである
  • 背筋と腹筋の強化に特に注意を払うべきである
  • 痛みがある場合はトレーニングを中止する
  • 筋力トレーニングプログラムが、運動能力とフィットネスレベルの向上を目的とした総合的なプログラムの一部であることを確認する
  • すべてのエクササイズが可動域全体を使って行われるようにする
  • 最大重量でのリフトを禁止する

初心者向けのレジスタンストレーニングでは、以下の基本的なガイドラインに従うことで、効果的かつ安全にトレーニングを進めることができます。

  1. 各セッションの始めと終わりに5分から10分のウォームアップとストレッチを行う
  2. 筋肉群のペアを交互に鍛えることで、トレーニングのバランスを取る。例えば、「プッシュ」運動の後に「プル」運動を行う。(プル運動の例としては、バーベルまたはダンベルを使ったベントオーバーロウ、ケーブルラットプルダウン、シーテッドロウなど。プッシュ運動の例としては、バーベル、ダンベル、またはマシンを使ったベンチプレス、スクワット、ショルダープレスなど。
  3. まず大きな筋肉群(大胸筋 – 胸、広背筋 – 背中、大腿四頭筋)を鍛え、最後に小さな筋肉群(上腕二頭筋と上腕三頭筋 – 腕、三角筋 – 肩、腓腹筋/ヒラメ筋 – ふくらはぎ)を鍛える
  4. 1セットにつき6~15回を1~3セット行う。低年齢の子供はセット数は少なく、回数は多くする
  5. 各筋力トレーニングセッションの後に48時間の回復期間を設ける
  6. 他のスポーツ活動を継続しながら、週に2~3回、スケジュールに沿ってトレーニングを行う
  7. 低年齢の子供は1回につき20~30分、高年齢の子供は1回につき時間を長くする

結論:成長期のアスリートにもレジスタンストレーニングは有効

成長期の骨格が未発達であることを理由に、レジスタンストレーニングを完全に避ける必要はありません。むしろ、適切な負荷設定と指導があれば、骨の強化や筋力向上に役立ち、スポーツパフォーマンスを向上させる ことができます。

もちろん、無計画な高重量リフティングや誤ったフォームでのトレーニングはリスクを伴います。しかし、それはどのスポーツでも同じこと。正しい指導のもとで行われれば、レジスタンストレーニングは若年アスリートにとっても安全で効果的なトレーニング手法となり得るのです。

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参照

1.Sports Medicine 15, 389-407, 1993
2.Australian Journal of Sport Science 1, 3-6 1981
3.Effects of Physical Activity on Children, Broekhoff J, Human Kinetics, 78-87, 1986
4.Child Health, Nutrition and Physical Activity, Cheung & Richmond. Human Kinetics, 1995
5.Designing Resistance Training Programmes, Fleck SJ & Kraemer WJ, Human Kinetics, 1987
6.Strength Training for Sport, Hazeldine R, The Crowood Press, 1990
7.Sports Medicine in Primary Care, August S. 5-S. 8, 1995
8.Exercise Physiology Energy, Nutrition and Human Performance (3rd Ed), McArdle WD, Katch, FI, Katch VL, Lea & Febiger, 1991
9.Sports Med 16, 57-63, 1993
10.Medicine and Science in Sports and Exercise 26, 510-514, 1993
11.Physician and Sportsmedicine, 14, 134-139; 142-143, 1986
12.Strength Training Effects in Prepubescent Boys, 22, 605-614
13.National Strength and Conditioning Association Journal 13, 39-46, 1991
14.Physician and Sportsmedicine, 21, 105-116. 1993
15.Medicine and Science in Sports and Exercise 6, 629-638, 1986
16.Wilmore JH & Costill DL, Physiology, of Sport and Exercise, Human Kinetics, 1994
17.American Journal of Sports Medicine 8, 318- 323, 1980
18.Medicine and Sport, 11, 152-158, 1978

参照文献

GRANTHAM, N. (2003) Resistance Training. Brian Mackenzie’s Successful Coaching, (ISSN 1745-7513/ 4 / August), p. 5-8

参照ページ

GRANTHAM, N. (2003) Resistance Training [WWW] Available from: https://www.brianmac.co.uk/articles/scni4a4.htm [Accessed 27/2/2020]
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