根性論を超えて:現代アスリートのための間欠的持久力解放ガイド
アスリートのパフォーマンスを劇的に向上させる間欠的持久力。その能力を最も効率的に鍛えるトレーニング方法がHIIT(高強度インターバルトレーニング)です。サッカーやバスケ、ラグビーなどのチームスポーツで「試合の最後まで走り勝ちたい」「スプリントを何本も繰り返せるようになりたい」と考えるなら、根性論や長距離走だけでは不十分です。
本記事では、数々の学術論文に基づき、現代アスリートに不可欠な間欠的持久力を科学的に解放するガイドを提供します。HIITの基本から、競技特性に合わせた4つの主要プロトコル(長時間インターバル、短時間インターバル、RST、SIT)、そして究極の専門トレーニングと言われるスモールサイドゲーム(SSG)までを網羅。あなたのパフォーマンスを次のレベルへ引き上げる、具体的なトレーニングメニューを紹介します。
基礎:高強度インターバルトレーニング(HIIT)
間欠的持久力を構築するための基礎となるのが、高強度インターバルトレーニング(HIIT)です。これは、短い高強度の運動と短い回復期間を交互に繰り返すトレーニングです。HIITは非常に時間効率が良く、心肺持久力やその他の健康指標を向上させる上で、中強度持続的トレーニングよりも効果的であることが示されています。
HIITは画一的なアプローチではありません。行うHIITの種類は、あなたのスポーツの要求に合わせるべきです。以下に主なカテゴリーを挙げます。
1. 長時間インターバルHIIT (Long-Interval HIIT)
- 目的: 強力な有酸素エンジンを構築し、最大酸素摂取量()を最大化すること。持久系スポーツの基礎体力を向上させるのに最適です。
- 方法: 2分から5分間の運動を、会話が困難なほどの高強度(最大心拍数の85~95%)で行います 。回復期間は通常2~3分で、完全に静止するのではなく、軽いジョギングやサイクリングなどの積極的回復(アクティブリカバリー)を行います。
- 具体的なトレーニング例(クラシックな4×4プロトコル ):
- 種目: ランニング、サイクリング、ローイングなど
- トレーニング例:
- 4分間の高強度運動(最大心拍数の90~95%)
- 3分間のアクティブリカバリー(最大心拍数の60~70%)
- セット数: 上記のサイクルを4回繰り返す。
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HIITの効果を深く理解する上で欠かせないのが、持久力の指標となる最大酸素摂取量()です。の詳しい意味や、自身の数値を把握するための計算・測定方法については、こちらの記事で詳しく解説しています。


2. 短時間インターバルHIIT (Short-Interval HIIT)
- 目的: 有酸素系と無酸素系の両方に刺激を与え、試合中のような高強度の動きを維持する能力と疲労への耐性を高めること。
- 方法: 15秒から60秒の短い運動を、非常に高い強度(最大酸素摂取量時の速度の100~130%)で行います 。回復期間も同様に短く、運動と回復の比率が1:1になることが多いです(例:30秒運動/30秒回復)。
- 具体的なトレーニング例(ランニングベース):
- 種目: トレッドミルや陸上トラックでのランニング
- トレーニング例:
- 30秒間の高強度ランニング(自覚的運動強度で「非常にきつい」レベル)
- 30秒間の休息(その場での足踏みや軽いジョグ)
- セット数: 上記のサイクルを10~20回繰り返す。総運動時間は10~20分程度。
3. 反復スプリントトレーニング(RST)
- 目的: チームスポーツで最も重要となる、爆発的なスプリントを何度も繰り返す能力(RSA)を直接的に鍛えること。神経筋のパワーと、短時間でのエネルギー再生産能力をターゲットにします。
- 方法: 10秒未満の「全力」スプリントと、60秒未満の不完全な回復を繰り返します 。回復が不完全な状態で次のスプリントを行うことで、試合中の疲労した状況をシミュレートします。
- 具体的なトレーニング例(サッカーやラグビー向け):
- 種目: フィールドでの35mスプリント
- トレーニング例:
- 35mスプリントを全力で行う(約5~6秒)。
- 10秒間、歩いてスタート地点に戻る(受動的回復)。
- これを6回繰り返して1セットとする。
- セット数: 3分間の完全休息を挟み、合計3~6セット行う。
スプリント能力を試合で活かすには、相手の動きに反応し、爆発的に方向転換するアジリティ(敏捷性)が不可欠です。その能力を高める科学的トレーニングを、こちらの記事で詳しく解説しています。

4. スプリントインターバルトレーニング(SIT)
- 目的: 無酸素性エネルギー供給系の能力(解糖系)と、乳酸などの代謝物に対する緩衝能力を最大限に高めること。短時間で極めて高い負荷をかけることで、有酸素能力も向上させます。
- 方法: 20~30秒間の「超最大努力(All-Out)」のスプリントを行います 。これは文字通り、持てる力の全てを出し切る強度です。その分、回復期間は2~4分と長く設定し、次のスプリントに備えてエネルギーシステムをほぼ完全に回復させます。
- 具体的なトレーニング例(Wingateプロトコル ):
- 種目: 固定式バイク(高い負荷をかけられるもの)
- トレーニング例:
- 30秒間の全力ペダリング(高い抵抗をかける)
- 4分間の非常に軽いペダリング、または完全な休息
- セット数: 上記のサイクルを4~6回繰り返す。
競技特異性への応用:トラックからフィールドへ
ランニングベースのHIITは効果的ですが、最高のトレーニングはしばしば最も競技特異的なものです。チームスポーツのアスリートにとって、これはコンディショニングを試合に近い状況に統合することを意味します。
スモールサイドゲーム(SSG):究極の競技特異的トレーニング
サッカー、バスケットボール、ホッケーのようなスポーツにとって、スモールサイドゲームは革命的です。これらは、より少ない人数で、より小さなフィールドで行う変則的なゲームであり、有酸素能力、敏捷性、反復スプリント能力を向上させることが証明されています。その効果は、しばしば従来のインターバルトレーニングと同等です。最大の利点は、身体的、技術的、戦術的スキルを同時に発達させることができ、ランニングドリルよりも一貫して楽しいと評価されていることです。
SSGは、特定の成果を目標とするように操作できます。
- 高速走行を増やすには: 選手一人当たりのピッチ面積を広くします(例:広いフィールドでの4対4)。
- ボールタッチと意思決定を増やすには: より狭いピッチ面積と少ない人数(例:3対3)で行います。
- 身体的負荷を高めるには: 連続的な形式ではなく、間欠的な形式(例:4分×3セット)を用います。
【理論を深める】なぜSSGはこれほど効果的なのか?
SSGが選手の能力を飛躍的に向上させる背景には、「エコロジカルアプローチ」という最新の科学理論があります。これは、コーチが練習環境の「制約」をデザインすることで、選手が自ら最適な動きや判断を見つけ出すことを促す指導法です。
反復練習から脱却し、より実践的なスキルを育むこのアプローチについて、以下の記事で詳しく解説しています。

複合トレーニング:相乗効果の力
反復スプリント能力(RSA)を真に最大化するためには、強く、爆発的である必要があります。研究では、異なるトレーニングタイプを統合する複合トレーニングが、単一のトレーニングを行うよりも効果的であることが一貫して示されています。RSAを向上させるための最も強力な組み合わせは、プライオメトリクス+スプリントトレーニングです。プライオメトリクス、すなわちジャンプトレーニングは、筋肉が素早く力を生み出す能力を高め、それが直接的に、よりパワフルなスプリントにつながります。
間欠的持久力ワークアウト集
ここに、あなたのトレーニングプランに組み込むことができる4つのサンプルワークアウトを紹介します。常に適切なウォーミングアップとクールダウンを行うことを忘れないでください。
「4×4」有酸素パワービルダー
- 目的: 強力な心肺機能の基礎を築き、体全体の持久力を向上させる。
- 方法:
- 高強度運動(4分間): ランニング、サイクリング、ローイングなどで、最大心拍数の85~95%の強度を維持します。心拍計がない場合は、息が弾み、会話がほとんどできないくらいの「きつい」と感じるレベルです。
- アクティブリカバリー(3分間): 軽いジョギングやゆっくりとしたペダリングなど、強度を最大心拍数の60~70%まで落として回復に努めます。息を整えることができる程度の強度です。
- 繰り返し: 上記の7分間のサイクルを合計4回繰り返します。
- ポイント: このトレーニングの鍵は、4分間の高強度運動を最後まで維持することです。初心者の場合は、2~3回の繰り返しから始め、徐々に4回に増やしていくと良いでしょう。
反復スプリントトレーニング(RST)
- 目的: 試合で求められる、短い休息を挟んで爆発的なスプリントを繰り返す能力(RSA)を直接的に向上させる。
- 方法:
- スプリント(約6秒): 30~40mの距離を全力でスプリントします。
- 回復(20~30秒): スタート地点までゆっくり歩いて戻ります。これが回復時間となります。
- 繰り返し: 上記のスプリントと回復を6~10回繰り返して1セットとします。
- セット間休息: 1セットが終わったら、3~4分間の完全休息を取ります。
- 総セット数: 合計2~4セット行います。
- ポイント: 「全力」で行うことが極めて重要です。一本一本のスプリントで最高の質を追求してください。非常に負荷の高いトレーニングなので、最初はセット数や本数を少なめにして、徐々に増やしていきましょう。
サッカー/バスケットボールのスモールサイドゲーム
- 目的: 試合に近い状況で、身体能力、技術、戦術的判断を同時に、かつ楽しく鍛える。
- 方法:
- 設定: 25m x 32m程度の広さのピッチ(コート)で、4対4のゲームを行います 。ゴールはミニゴールを使用するか、コーンで代用します。
- 時間設定: 4~6分間のプレーを1セットとし、セット間には2~3分の休息を挟みます。これを3~4セット繰り返します。
- ポイント: プレーが途切れないように、ボールが外に出たらすぐに予備のボールを投入してゲームを再開させましょう。コーチや仲間からの声かけで、常に高いインテンシティを保つことが効果を高めます。
パワーとスピードの複合ワークアウト
- 目的: プライオメトリクス(ジャンプ系運動)で神経系を活性化させ、その直後のスプリント能力を最大限に引き出す(PAPE効果:活動後増強)。RSA向上に非常に効果的な組み合わせです。
- 方法:
- シーケンス形式:
- パワー発揮(プライオメトリクス): 適切な高さの頑丈なボックスに、爆発的に5回ジャンプします。できるだけ速く、高く跳ぶことを意識し、着地は静かに、柔らかく行います。ボックスからは飛び降りず、歩いて降りましょう。
- 短い休息: 最後のジャンプから60秒間休みます。
- スピード発揮(スプリント): 20mのスプリントを全力で行います。爆発的な加速を意識してください。
- 完全回復: 2~3分間の完全休息を取ります。これにより、次のセットでも高い質のパワーとスピードを発揮できます。
- 繰り返し: この一連のシーケンスを5~8回繰り返します。
- シーケンス形式:
- ポイント: これは持久力トレーニングではなく、パワーとスピードの質を高めるトレーニングです。全てのジャンプとスプリントを100%の力で、正しいフォームで行うことが最も重要です。疲れてフォームが崩れるようなら、無理せずセット数を減らしましょう。
最後のまとめ:根性論から科学へ、あなたの持久力を解放する
これまでのトレーニングの常識を覆す時が来ました。現代のスポーツにおいて、勝利を手繰り寄せるのは、ただ長く走り続けるスタミナではありません。試合終盤の決定的な瞬間に、最高のパフォーマンスを何度も繰り返す能力、すなわち「間欠的持久力」です。
この記事で紹介した科学的根拠に基づくアプローチを、あなたのトレーニングに組み込むことで得られる重要なポイントを再確認しましょう。
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ポイント1:トレーニングは「特異性」が鍵 あなたの目標が、強力な有酸素ベースの構築であれば長時間インターバルHIITを。試合中のような高強度での粘り強さが必要なら短時間インターバルHIITを。そして、チームスポーツに不可欠な爆発的なスプリントの繰り返しにはRSTやSIT、さらには究極の競技特異的トレーニングであるスモールサイドゲーム(SSG)を選択してください。目的が違えば、最適なトレーニングも異なります。
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ポイント2:1+1を3にする「複合トレーニング」 反復スプリント能力(RSA)を最大化する鍵は、トレーニングの組み合わせにあります。科学は、プライオメトリクス(ジャンプ系)で爆発力を高め、スプリントでスピードを磨くという複合トレーニングが、単一のトレーニングを行うよりもはるかに効果的であることを示しています。パワーとスピード、この2つを組み合わせることで、初めて真のRSAが手に入ります。
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ポイント3:「楽しい」は科学的に正しい スモールサイドゲーム(SSG)が従来のドリル練習よりも楽しいと感じることは、単なる感情論ではありません。楽しさはモチベーションを高め、トレーニングの継続性を向上させます。質の高いトレーニングを継続できることこそが、長期的な成長を促す最も科学的なアプローチなのです。
さあ、行動に移しましょう。
この記事で紹介したサンプルワークアウトを、あなたの次のトレーニングから試してみてください。そして、自分の競技に本当に必要なものは何かを考え、トレーニングを最適化していきましょう。
試合終盤、ライバルが失速する中で、あなたはもう一度、爆発的なスプリントができるようになります。その一歩が、あなたを勝利へと導くはずです。科学があなたの最大の味方です。さあ、トレーニングを解放し、勝利を掴みましょう。
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