野球選手にとって「筋トレ」は必要か?
かつてはそんな誤解もありました。
しかし今、世界のトップ選手たちは “正しく筋トレ” を取り入れることで、投球速度・打球速度・俊敏性を劇的に伸ばしています。
このブログでは、野球選手のための筋トレを最新の研究から徹底解説。
どんな筋トレがパフォーマンスに効くのか?
怪我を防ぐためのメニューは?
シーズン中でもやるべきか?
実践的なメニューと科学的根拠を合わせて紹介しています。
最新研究が明らかにするポイント
1. パワークリーンのバリエーションは投球パフォーマンスを向上させる
パワークリーン(PC)やハングパワークリーン(HPC)といったクイックリフト系エクササイズが、下半身の爆発的な筋力と投球速度を有意に向上させると報告しています。
特にハングパワークリーンは、床からのリフトではなく太もも付近の中間位置から爆発的に引き上げるエクササイズです。
動作範囲が限定されているため、腰やフォームの乱れによる負担が軽減されやすく、技術習得が比較的容易です。
また、肩や肘・手首に不安がある選手や、キャッチフェーズのテクニック習得が難しいケースにおいては、ハングハイプル、ジャンプシュラッグ、ミッドタイプル(Mid-Thigh Pull)などのバリエーションも同様に爆発的パワーを養ううえで有効とされています。
ストレングスコーチのアドバイス
テクニックと爆発力に重点を置いて、ハングパワークリーンをトレーニングに取り入れましょう。
手首や肩に不安がある場合は、キャッチ動作のないハイプルやジャンプシュラッグなどを代替として活用することで、安全かつ効果的にパワーを養成できます。
「ハングクリーン」と「パワークリーン」の正確な違いや、アスリートにとってどちらがより実践的で効果的なのかについて、S&Cコーチが詳細に解説しています。クイックリフトを安全かつ効果的に取り入れたい方は、ぜひこちらをご覧ください。
ハングクリーンとパワークリーンの違いとは?アスリートが本当にやるべき種目をS&Cコーチが徹底解説
2. プライオメトリクスおよびバリスティックトレーニングは投球速度を高める
プライオメトリックトレーニングが高校野球選手の投球速度を著しく向上させることが示されています。
「Thrower’s Ten」やKeiserファンクショナルトレーナーなどと組み合わせることで、爆発力の発達に効果的です。
ストレングスコーチのアドバイス
ローテーショナルメディシンボールスロー、プライオメトリック・プッシュアップ、ラテラルバウンドを定期的に実施しましょう。
「Thrower’s Ten」は、肩・肩甲帯・肘まわりの安定性と可動性を高める10種のエクササイズで構成された、投手に特化したリハビリ&パフォーマンス強化プログラムです。
主に以下のような目的で使用されます:
- 肩関節の安定化
- ローテーターカフ(回旋筋腱板)の強化
- 投球障害の予防・改善
アスリートの状態に応じて、バンドや軽負荷のダンベルで行うことが多く、投球フォームの再獲得や可動性の回復にも有効とされています。
Thrower’s Ten 参考動画
さらに詳しく知りたい方へ:
「投球速度を上げたいなら、プライオメトリクスとジャンプ力の関係を見逃してはいけません。」
実はラテラルジャンプ力(横方向の跳躍能力)と速球のスピードには強い相関があることが、最近の研究で示されています。
以下の記事では、具体的なデータと実践的なジャンプトレーニングの方法を詳しく紹介しています👇

3. メディシンボールトレーニングは回旋パワーを向上させる
メディシンボールトレーニングが回旋パワーと投球速度を著しく向上させることが示されています。
特に、12週間のローテーション系メディシンボールエクササイズは顕著なパフォーマンス向上をもたらしました。
ストレングスコーチのアドバイス
サイドトス、ローテーショナルスロー、オーバーヘッドスラムなどのメディシンボールドリルを、週2~3回取り入れましょう。
4. 個別化されたストレングストレーニングが不可欠
MLBを対象とした2020年の研究では、個人に合わせたピリオダイズされたストレングストレーニングが、ケガのリスクを大幅に減らし、投球パフォーマンスを向上させると述べられています。
トレーニング量と強度をアスリートのニーズに応じて調整することが重要です。
ストレングスコーチのアドバイス
定期的にアスリートの強み・弱み・疲労度を評価し、個別化されたプログラムを設計しましょう。
ストレングストレーニングを“計画的”に行うには?
アスリートに最適な効果をもたらすには、“個別性”と“タイミング”が不可欠です。
そのためには、「ピリオダイゼーション(期分け)」という考え方が非常に重要になります。
「どの時期に、どんな目的で、どのような強度・量でトレーニングを行うか?」
それを計画的に設計することで、過度な疲労やケガを防ぎながら、最大の成果を得ることができます。
✅ 目的別に学びたい方はこちら:
解剖学的適応期とは?ケガを防ぐ“導入フェーズ”の作り方

筋肥大を最大化するためのピリオダイゼーション戦略

最大筋力を引き出す“力の伸び悩み”突破法

5. 多平面トレーニングは重要
研究によると、野球は多方向の動作を含む競技であり、矢状面(前後の動き)だけに限定されたトレーニングでは不十分です。
前額面(左右)および水平面(回旋)のエクササイズを含めることで、機能的な筋力とケガ予防が実現します。
ストレングスコーチのアドバイス
ラテラルランジ、ローテーショナルケーブルチョップ、アンチローテーション系の体幹トレーニングを取り入れましょう。
野球のように多方向に動くスポーツでは、「ただ筋肉を鍛える」のではなく、実際のプレーに近い“動きの質”を高めることが重要になります。
この考え方は、「ファンクショナルトレーニング」と呼ばれ、
現場でのパフォーマンスに直結する“使える筋力”を育てる手法として注目されています。
👉 実践的な動作強化の考え方はこちらで詳しく解説しています👇

🧱 野球選手に必要なトレーニング一覧
下半身パワー・加速・減速のために
野球の走塁、送球、スイングの「地面反力」を最大化するための基盤です。
•バックスクワット(Back Squat)
•フロントスクワット(Front Squat)
•トラップバーデッドリフト(Trap Bar Deadlift)
•ブルガリアンスプリットスクワット(Bulgarian Split Squat)
•スプリットジャンプ(Split Jump)
•ラテラルランジ(Lateral Lunge)
•スレッドプッシュ/ドラッグ(Sled Push / Drag)

回旋パワー(スイング・送球)のために
回旋動作は野球の中核。ヒップと体幹の連動がポイントです。
スイングやスロー動作の“回す力”と“止める力”を高める。
•メディシンボールサイドスロー(Medicine Ball Side Throw)
•メディシンボールショットプットスロー(Medicine Ball Shot Put Throw)
•ケーブルローテーショナルチョップ(Rotational Cable Chop)
•パロフプレス(Pallof Press)
肩甲帯・肩関節の安定性と強化
投球障害・肩肘のケガ予防には「動かす前に安定させる力」が必要。
•バンドプルアパート(Band Pull-Apart)
•フェイスプル(Face Pull)
•Y-T-W-Iショルダーサーキット(Y-T-W-I Shoulder Circuit)
•スキャプションパンチ(Scapular Punch)
•プランク+リーチ(Plank with Reach)
こうした肩まわりの安定性エクササイズは、ウォーミングアップに組み込むことで、より高い効果が得られます。
特に投球やスロー系動作が多いスポーツでは、ウォーミングアップの質がケガ予防とパフォーマンスの分かれ目になります。


体幹・連動・安定性のために
パワー伝達の“橋渡し役”となる体幹は、動きながら使える状態を目指します。
“体幹”でパワーを伝える能力と、動作の安定性を養う。
•デッドバグ(Dead Bug)
•TRXボディソウ(TRX Body Saw)
•ハーフニーリングオーバーヘッドプレス(Half-Kneeling Overhead Press)
•ケーブルアンチローテーショントレーニング(Anti-Rotation Cable Hold)
上半身の押す・引く能力
パフォーマンスとケガ予防の両方に必要な、押し引きのバランス強化。
打撃・スロー時の“押し出す力”“引き戻す力”をバランスよく。
•インクラインダンベルプレス(Incline Dumbbell Press)
•TRXロウ(TRX Row)
•ワンアームダンベルロウ(One-Arm Dumbbell Row)
•ランドマインプレス(Landmine Press)
•プッシュアップ+Tローテーション(Push-Up + T Rotation)
スピード・反応・瞬発系ドリル(導入/補強に)
プレーの中での“初動の速さ”や“俊敏性”を養う補強ドリル。
•連続ボックスジャンプ(Continuous Box Jumps)
•ラテラルバウンド+ストップ(Lateral Bound + Stick Landing)
•オーバーヘッドメディシンボールスラム(Overhead Medicine Ball Slam)
•反応ボールキャッチ(Reaction Ball Catch)
•リアクションライトドリル(Reaction Light Drill)
✅ さらに詳しく知りたい方へ:
こうしたスピードや瞬発系ドリルは、ジャンプ力の向上にも直結します。
ジャンプ力は、スプリント・打撃・守備などあらゆる局面でパフォーマンスを左右する要素です。
▼「ジャンプ力を高める」科学的なトレーニング方法はこちら👇

補足:このように考えると整理しやすい!
|
能力 |
種目の例 |
|---|---|
|
地面反力 |
Trap Barデッドリフト、スレッドプッシュ |
|
横方向の力 |
ラテラルランジ、ラテラルバウンド |
|
回旋 |
メディシンボール・サイドスロー、チョップ |
|
体幹安定 |
パロフプレス、デッドバグ |
|
肩の安定 |
Y-T-W-I、バンドプルアパート |
|
連動性 |
ハーフニーリングプレス、ランドマインプレス |
|
パワー出力 |
HPC、メディシンボールスロー、ジャンプ系 |
|
ケガ予防 |
インナー強化種目、左右差修正ドリル |
もちろん、ここで紹介した種目だけをやれば完璧というわけではありません。
むしろ、さまざまな刺激や動作パターンを取り入れることで、動作の多様性(movement variability)や予測不能な場面への適応力が養われていきます。
野球は、常に同じ状況でプレーできるわけではありません。だからこそ、トレーニングにも「変化」と「幅」を持たせることが、長期的な成長とケガ予防につながるのです。
こうした考え方は、最近注目されている「エコロジカルアプローチ」という運動学習理論とも深く関係しています。
プレーヤーの“適応力”を引き出す最新理論はこちら👇

まとめ
現代の野球選手に求められるのは、研究に裏打ちされた総合的かつ個別対応のストレングストレーニングです。
パワークリーンのバリエーション、プライオメトリクス、メディシンボール、そして多平面トレーニングを活用することで、最適なパフォーマンスとケガのリスク低減を実現できます。
賢く鍛え、目的を持ってトレーニングし、アスリートの可能性を最大限に引き出しましょう。
📚 参考文献
Suchomel, T. J., & Sato, K. (2013). Baseball Resistance Training: Should Power Clean Variations Be Incorporated? Journal of Athletic Enhancement, 2(2), 1–6. https://doi.org/10.4172/2324-9080.1000112
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Reinold, M. M., & Gill, T. J. (2021). Strength and Conditioning Considerations for Baseball Athletes. Current Sports Medicine Reports, 20(6), 295–303.



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