【書評】ハイパフォーマンスの科学 トップアスリートを目指すトレーニングガイド
“トップアスリートを育成させるために、科学的研究に基づいた知識と技術が集約された一冊。”
✔︎本書で学べること! |
PART I 強いアスリートの育成
第1章 運動能力の評価
第2章 若年アスリートの育成
第3章 動きの効率を高める
第4章 コアの安定性と強化
第5章 柔軟性の最適化
第6章 トレーニングに対する反応のモニタリング
第7章 けがをしたアスリートのリトレーニング
PART II 競技能力の向上
第8章 ウォーミングアップとクールダウンをカスタマイズする
第9章 運動制御の調整
第10章 爆発的なパフォーマンスのための筋力の活用
第11章 筋力をスピードにうまく転換する
第12章 跳躍と着地のトレーニングの最適化
第13章 敏捷性(アジリティ)の向上
第14章 無酸素性パワー発揮
第15章 繰り返しのパフォーマンスのための持久力の獲得
第16章 有酸素性能力の強化
第17章 最適で効果的なクロストレーニング法
PART III パフォーマンスの発揮
第18章 パフォーマンスプログラムの計画
第19章 エネルギーに特化したプログラムデザイン
第20章 干渉作用の最小化
第21章 チームスポーツにおける最適なプレシーズントレーニング
第22章 個人競技における試合のためのピーキング
第23章 シーズン中におけるコンディションの維持
第24章 ハイパフォーマンススポーツにおける効果的なリカバリー
✔︎PART I 強いアスリートの育成 |
第1章 運動能力の評価
アスリートを育成していくにあたり、まずアスリートの能力を把握しておかなければならない。
本章ではアスリートの身体能力を評価する方法が紹介されている。また、能力を評価するにあたり妥当性や信頼性が重要になる。
妥当性とは、テストが測定しようとするものをどの程度測定しているか、また、テストのスコアに基づいて行われる推論、結論、決定がどの程度適切で意味があるかということを指す。つまり、有酸素性持久力を測定したいにもかかわらず敏捷性を測定するTDrill testを行っていないか。有酸素性持久力を測定したいのであればYo-Yo Endurance TestやCooper VO2max testなどを使用するということである。
信頼性とは、テストが意図したものを測定する際に、いかに一貫性があり安定しているかということ。信頼性は、テストがどの程度厳格に実施されているか、また、個人のテストに対するモチベーションの度合いによっても異なる。他にもテストの信頼性に影響を与える可能性のある様々な要因がある。
多くのアスリートがパフォーマンスを向上させるために筋力やパワー、スピードを向上させるためにレジスタンストレーニングを取り入れるであろう。ジャンプ力とスクワット、ゴルフや野球のスイングスピードとベンチプレスやスクワットといったウエイトトレーニングに相関関係があったりはするが、レジスタンストレーニングの目的はスクワットやベンチプレスで高重量を扱うことではなく、あくまでもパフォーマンスの向上を目的としていることを忘れてなならない。また、運動能力が向上したからといってパフォーマンスが向上するとも限らないとも知っておかなければならない。いかにその能力をパフォーマンスに転移できるかが重要である。
第2章 若年アスリートの育成
暦年齢や生物学的年齢について述べられており、またそれぞれの発達段階においてどのようなトレーニングを選択するべきかがわかりやすく図示されている。また、生物学的年齢だけではなくトレーニング年齢も考慮する必要があるとされている。
やはり、早期の競技専門化はスポーツ障害や筋骨格系の痛みを誘発するする恐れがあるので、あまり力を入れなくてもいいとされている。
近年は、子供に早くから1つの競技に専念させる「英才教育」を行う風潮があるように感じる。
まずは走る、投げる、ジャンプやスキップなど基本的な動作スキルに焦点を絞り、次の段階として競技動作スキルを伸ばしていき、最終的にスポーツ特有のスキル習得へと移っていくべきだと考えられている。例えば、「走る」は基本的動作スキルであり、「加速、減速、再加速」が次の段階の競技動作スキルにあたる。
第3章 動きの効率を高める
動きの効率について述べられており、『効率的な動き=エネルギーリーク(漏れ)が少ない』
もし仮に、全身持久力を測定するために選手Aと選手Bに自転車エルゴメーターを用いて行って、選手AとBが同様の結果が出たとする。さらに、別の方法で全身持久力を測定するためにシャトルランを行ったとしても選手AとBは同様の記録が出るのだろうか?
答えは「NO」
ここでは、両選手の走ることに対しての能力差も関係してくるからである。それは筋力であったり柔軟性かもしれない、はたまた走ることに対してのテクニックの違いも十分考えられる。
つまり、一つの能力に対して焦点を当てて改善を試みるのではなく、選手の能力はいろいろな要因が合わさった上で、結果が生み出されていることを理解しなければならない。
この章では、このようなことが述べられており、ランニングと投球動作に対するエネルギーリークのテストであったり修正ドリルが挙げられている。
第4章 コアの安定性と強化
”コア”とは解剖学的には頭部と四肢(手足)を除いた胴体部分と骨盤、上肢帯(鎖骨、肩甲骨)、胸郭(胸骨、肋骨)と考えられている。
それでは、コアスタビリティとなると前述した”コア”をトレーニングするとスタビリティ(安定性)は向上するのだろうか?
答えは、もちろん「NO」である。
前章でも述べたのと同様に、どこか1箇所を改善すれば解決されるようなものではない。いろいろなものが作用して私たちの姿勢が作り上げられている。
ここでは姿勢をコントロールしている要素を全てを含め「姿勢制御」と呼び、姿勢制御に関する評価(テスト)方法が紹介されている。
第5章 柔軟性の最適化
柔軟については近年になって運動前は動的ストレッチ、運動後は静的ストレッチというのが徐々に定着しているように感じる。
本章では現時点で分かっている柔軟に対しての指針を述べている。
やはり、過度の柔軟性はパフォーマンスの低下や障害のリスクが上がる可能性があるとされている。しかしバレエや体操といった過可動性が優位に働く競技もあるため一概に過度の柔軟性が悪いとは言いきれない。
条件としては自身でコントロールできる範囲での柔軟性が重要になる。
第6章 トレーニングに対する反応のモニタリング
選手がベストコンディションで試合に望めるようにするためのトレーニング負荷、そして疲労のモニタリング方法について述べられている。トレーニングは大事ではあるが、どれだけ回復できているかも同様に重要である。なぜなら過度に疲労が溜まると障害や疾病のリスクが向上してしまうからだ。
ここでは、超回復理論を用いて説明されている。近年はフィットネス–疲労理論が主流になってきてはいるが、主にトレーニング量や強度、疲労に対する評価の説明が行われているので十分参考になる内容である。
評価にあたり負荷を数字として表さなければならない、つまり定量化する必要がある。トレーニングを定量化する際には、外的負荷(継続時間、スピード、距離など)を用いることができる。
さらに心理的、生理学的な内的負荷も考慮する必要がある。これには心拍数であったり主観的感覚が用いられる。主観的感覚を評価するためのアンケート(DALDA、日常の健康に関するアンケート)も紹介されているのでぜひ活用していきたいものではある。
第7章 けがをしたアスリートのリトレーニング
怪我から復帰までのマネジメントや考えやについて述べられている。怪我ごとのアプローチ方法は記載されていないが、ここではハムストリングの怪我から復帰までの段階における基準が紹介されており、その基準はその他の障害につても応用することができる構成となっている。
また、競技復帰の可否を判定するための機能的評価項目が紹介されているが、怪我関係なく選手の筋力やパワー、最大スピードといった能力の指標として各種目の記録を管理しておくことも役立つ。
✔︎PART II 競技能力の向上 |
第8章 ウォーミングアップとクールダウンをカスタマイズする
よく知られていることだが、ウォーミングアップは傷害のリスクを下げ、パフォーマンスを改善させる。本章では多方面からのウォーミングアップの方法が述べられている。
そろそろ一般化されているとは思うが、ダイナミックストレッチ(動的ストレッチ)はウォーミングアップ時に行い、スタティックストレッチ(静的ストレッチ)はクールルダウン時に行うべきとされている。
その中でもバランスを必要とする動きをウォーミングアップに取り入れることにより筋の安定化機能を刺激し、活性化させる有効な手段として紹介されている。
近年さまざまなトレーニング方法が出てきている中で、不安定な足元で筋力トレーニングを行うことで”体幹”がより鍛えられると言われたりしている。その中で、私の意見ではあるがバランストレーニングと筋力トレーニングは別々に考えるべきである。バランスディスクやバランスパッド上でウエイトを持たない状態でのスクワットやシングルレッグRDLを行うのはウォーミングアップとしては有用であるが、高重量を使用しそれらを不安定な足元で行うことは筋力トレーニングを行うにあたり十分なパフォーマンスを行うことができない、また安全面を考慮するとあまり勧められない。
また、ダイナミックストレッチやスタティックストレッチを行う際に考慮しなければならないことや注意点が挙げられており、その他にもウォーミングアップの実例も併せて紹介してある。
第9章 運動制御の調整
運動制御がどのようにして行われているのかをダイナミックパターン(分散型理論)とスキーマ理論(階層型理論)を用いて説明してある。
学習の習得にあたってはワーキングメモリを活性化させるようなコーチングは避けるべきだと述べられている。つまりこれに関しては、『注意と運動学習 ー動きを変える意識の使い方ー』という本にてわかりやすく説明してあったのでこちらを読んでいただきたい。指導する際に気をつけなければならないこと、キューイングなどが実験を通して詳しく述べられている。
ダイナミックパターン(分散型理論)に関しては、『成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法』の本の中でとてもわかりやすく説明されている。この2冊は指導する立場の方であればぜひ読んでいただきたい本である。
第10章 爆発的なパフォーマンスのための筋力の活用
発育期、中級アスリート、エリートアスリートと分けての筋力やパワー向上のための長期的な計画案が紹介されている。それぞれの計画案には、きちんと目的や内容が述べられておりトレーニングプログラムを作成していくうえで参考になる内容となっている。
また、トレーニングの原則の中の全面性の原則にもあるように。筋力を向上させていく上で、筋力のバランスについて繰り返し述べられている。筋バランスが崩れると動きに制限が出てきたり、怪我のリスクが高まる可能性があるので、上半身と下半身、主動筋と拮抗筋というようにバランスを考えながらプログラミングをしていく必要がある。
筋肥大期やパワー期におけるトレーニングプログラムのテンプレートも紹介されている。しかし、ただ単純にこのテンプレートを使用すればよいと言うものではなく、きちんと考え方も合わせて述べられているので、自身でトレーニングプログラムを開発していくうえでとても役に立つ内容となっている。
第11章 筋力をスピードにうまく転換する
ゆっくりした速度で動きをマスターすれば、さらに努力して、もっと早くそれを繰り返すテクニックを磨くことができる。
第1章の運動能力の評価でも述べたが、レジスタンストレーニングの目的はスクワットやベンチプレスで高重量を扱うことではなく、あくまでもパフォーマンスの向上を目的としていることを忘れてなならない。また、運動能力が向上したからといってパフォーマンスが向上するとも限らないとも知っておかなければならない。いかにその能力をパフォーマンスに転移できるかが重要である。
本章では筋力をどのようにパフォーマンスへ転移していくかの手法が多く述べられている。
よくスポーツにおいて”キレ”という言葉が使われることが多いが、この”キレ”の要素の一つとして筋肉の弛緩と緊張が大きく関わっていると思う。常に筋が固く緊張している状態であれば素早く動かすことは難しく、弛緩と緊張を敏速に行うことで”キレがある動き”が生まれる。
この章では、走ることに重点をおいて説明してある。チームスポーツやスプリント選手に向けたスピードトレーニングメニュー例の紹介、そのメニュー遂行にあたっての手法なども併せて紹介されている。その中でもオーバーヘッドメディシンボーマーチについては姿勢作りにおいてとても有益なトレーニングであり、私も使用することが多い。
第12章 跳躍と着地のトレーニングの最適化
跳躍力を上げるためにジャンプスクワットやクリーンなどのパワートレーニングを取り入れることが多いだろう、ここでは使用する重量のパーセンテージがトレーニングプログラムの例とともに紹介されている。また、プライオメトリックトレーニングの種類はスポーツによっても使い分ける必要があり、バレーやバスケットといったジャンプが多い競技において、それぞれ全般的、特殊、固有のエクササイズが紹介されている。
つまり、考え方としてはスナッチやクリーンといったオリンピックリフト競技にて最大パワーを向上させ、プライオメトリックエクササイズにてSSC(ストレッチングショートニングサイクル)機能を向上させ、最終的にそれぞれのスポーツ特有のブロックジャンプやリバウンドなどに落とし込んでいくというもの。
ただ、プライオメトリックなどのジャンプトレーニングにおいて着地姿勢は注意しなければならない。安全な着地姿勢ができてから、ジャンプに移行していく必要がある。着地姿勢についてはあまり本書では述べられていないが、着地姿勢を作るための漸進的プログラムが紹介されている。
跳躍と着地においてknee-inは膝の怪我のリスクを増大させてしまうので、安全な跳躍・着地姿勢は常日頃から気をつけて癖づけをしておきたい。
第13章 敏捷性(アジリティ)の向上
私は敏捷性を「素早く動く能力」と考えていたが、本章での敏捷性の定義は素早く動く能力と定義付けはしておらず、方向転換の速さや知覚的・認知的速度も含め「敏捷性」と定義している。これはとても興味深い内容であった。
方向転換の速さや知覚的・認知的速度も含めることで反応時間や状況把握など、単純に素早く動くだけでなく色々な方面から俊敏性の向上にアプローチすることができる。
また、敏捷性を向上させるにあたり繰り返しトリプルエクステンションによる出力が鍵となってくると述べられている。私が選手を見ている中で股関節がうまく使えていない選手が多いように感じる。ここでは敏捷性向上のためのドリル例であったり、初心者から上級者アスリートにおいてどこに焦点を当てるべきかなどが紹介されている。
第14章 無酸素性パワー発揮
無酸素性運動は無酸素性パワーと無酸素性作業能力の2種類に分類することができる。
この章では、この二つの無酸素性運動の違いや無酸素性運動能力を向上させるトレーニング案が紹介されている。
無酸素性パワーは、垂直跳びや立ち幅跳びなど短時間で発揮される力であることに対し、無酸素性作業能力は100-400mスプリントといった30-60秒の間で発揮される能力という違いがある。
第15章 繰り返しのパフォーマンスのための持久力の獲得
この章では持久力についてではあるが、最大酸素摂取量や無酸素性作業閾値といった心肺機能についてではなく、筋持久力について述べられている。
筋持久力を高めるには”低負荷高レップ”がいいと言われたりするが、本書にも述べられている通り私もこの考えはあまり正しくないのではと思っている。
マラソン選手=筋持久力=”低負荷高レップ”というものではない。
もしそうであれば、よく言われる、競技の力は競技でつけるという考えになってしまう。
典型例として「柔道の力は柔道でしかつかない」という言葉がある。半分正解で半分間違いではないかと感じる。土台となる基礎筋力はウエイトトレーニングなどの筋トレを行って作っていき、その土台の上にある柔道力は柔道を通じてつけていくことがより良い方法ではないだろうか。
つまり、競技特性を生かすトレーニングは基礎体力という土台があってのものであり、その土台の上に得意的トレーニング、ファンクショナル(機能的)トレーニングがあるということです。
基礎体力の下には『Fundamental movement skills(FMS)』という基本的な動作スキルがあるのですがここでは省きます。
また、筋肉の効率と相対筋力を向上させるためにスタビリティリミティングリフト※が紹介されている。簡単な例としては片足スクワットがこれに当たる。他にも足を浮かせた状態で行う 90/90 Alternating Dumbbell Floor Pressなどがある。これらはバランスや筋肉の協調性が重要になってくる。そうすることで、より競技特異性に近づけたトレーニング方法の一つである。
※抵抗(重量物)を決められた姿勢で、決められた動作パターンで挙上する方法
第16章 有酸素性能力の強化
選手の有酸素性体力を向上させるにあたり、まず評価を行い現状を把握する必要がある。
正確な最大酸素摂取量(Vo2max)を評価するには専門機関に行く必要があり数千円の測定費用がかかってしまう。
一方、ここではフィールドで行える簡単な方法が紹介してある。おそらく日本で1番有名なのがシャトルランであろう。体育の授業で多くの方が苦しみながら行ったのではないだろうか。
本章ではMacimal aerobic speed testとYo-Yo testが取り上げられている。これらは比較的簡単にまた多くの選手の最大酸素摂取量(Vo2max)の測定が行うことができる。Yo-Yo testは音源が必要だがこれはアプリからダウンロードして容易に行うことができる。
評価を終えると、次はトレーニングを行なっていくのだがここでは、間欠的トレーニングが推奨されている。方法は本書にて確認していただきたいが、競泳やバスケットなどいくつかのスポーツにおいてのトレーニングプロトコル例も併せて紹介されている。
第17章 最適で効果的なクロストレーニング法
まずクロストレーニングとサーキットトレーニングは別物であることを理解しなければならない。
クロストレーニングは
専門スポーツに対するトレーニングの適応を増大し、専門的トレーニングの改善を得ることである(p.239)
と定義されている。
マラソン選手で例えるとすると、マラソン選手の有酸素性能力を改善するために水泳やサイクリングといった代用トレーニングを行うことである。
クロストレーニングを行うことで、スポーツ特有の動きやトレーニングで疲労した箇所を休ませる効果もあり、怪我のリスクを下げることもできる。また、傷害を受けたアスリートのリハビリテーションとしても使用することができる。
本章ではそれらのクロストレーニングが例とともに紹介されている。その他にも、クロストレーニングをプログラムに含める際の頻度、継続時間や強度などの留意点が紹介されている。
✔︎PART III パフォーマンスの発揮 |
第18章 パフォーマンスプログラムの計画
プログラムの計画と聞くとまずピリオダイゼーションが思い浮かぶ。ここではまず、そもそもピリオダイゼーションを使用するか否かを、いくつかのステップを用いて決められている。
また、ピリオダイゼーションを使用していくとなった時にトレーニング量と強度をどのように変化させていくか、ミクロサイクル(短期的計画)、メゾサイクル(中期的計画)、マクロサイクル(長期的計画)を立てるときに用いる戦略が紹介されている。
戦略は方法と事例研究とともに紹介されており、実際にどのように計画に落とし込んでいくかはまた別の章で細かく説明されている。
第19章 エネルギーに特化したプログラムデザイン
効果的なトレーニングプログラムを立てていくには、人体のエネルギー供給システムにおける供給の割合(速度)、持続時間、仕事とリカバリーの比率の3つの相互作用を理解する必要がある。
この相互作用を理解した上で、競技種目の特性を分類していく。
例えば、投擲はエネルギー生産の最大スピードは高く、エネルギー生産の最大持続時間は短い。一方でマラソンはエネルギー生産の最大スピードは低く、エネルギー生産の最大持続時間は長いといったように。そうすることでより適切なトレーニングプログラムを構築することができる。
そしてここから一般的準備期→専門的準備期→試合前期→試合期といった流れでプログラミングをしていく。これらの各期間においてどのうなことに重点をおいてトレーニングを決めていくかのガイドラインが紹介されている。実際にどのようなトレーニングを取り入れた方がいいとは記述されていないのでここは、他の資料や経験が必要になってくるだろう。
第20章 干渉作用の最小化
この章では、持久力トレーニングと筋力トレーニングを同時に行う、コンカレントトレーニングについて述べられている。
コンカレントトレーニングを行うことでどちらか片方の発達を阻害してしまうという認識をしていたが、アスリートのトレーニング歴も関係してくるので一概にはそうとも言えないようである。
干渉作用が少ない場合は、トレーニング経験がない方、もしくは少ない方が対象者となっており、反対に干渉作用が高い場合はエリートアスリートが対象者となっている。
論文なので”エリートアスリート”という言葉がよく使われるが、しっかりとした定義付けはされていないが、このような書籍で”エリートアスリート”と言われたときは大学以上を指す場合が多いようだ。
また、発達を阻害してしまう”干渉作用”を最小化する戦略も紹介されている。
トレーニング歴を考慮しながらコンカレントトレーニングを上手に使用し、ある程度基礎筋力を発達させた状態までもっていき、筋力なのか持久力なのか重点を決めてピリオダイズ化することで干渉作用を抑えることも一つの手段ではある。
第21章 チームスポーツにおける最適なプレシーズントレーニング
プレシーズントレーニングの主な目的は、障害予防、筋力・パワーの向上、コンディショニングの向上、そして戦術的トレーニングになってくる。
障害予防については、全体で行えるものから個人個人で行った方が良いものがある。全体で行えるものの例としてはバスケットではup and dropで着地姿勢の確認、野球ではYTWLにて肩甲骨の安定性や活性化を行うのもいいだろう。
スクリーニングを行い改善点があればプレシーズン中に改善しておきたいところではあるが、本章ではスポーツ医学のスタッフがクリニカルスクリーニング(筋のアンバランスや弱さ、関節の緩さなど)や動作評価を行うと紹介されているが、ここまで環境が整ったチームの方が少ないと思うので、FMS(Functional Movement Screen)を使ってスクリーニングを行うのもいいかもしれない。
参考までに私は柔軟性、可動域の評価に【ランジテスト・ストレートレッグリフト・トーマステスト・オーバーテスト・立位体前屈・アプレースクラッチテスト・体幹回旋・能動的胸椎伸展】の8種目を使用することが多い。
プレシーズン中のハイスピードランニングやタックルなどの障害リスクの高い練習の取り入れ方が紹介されている。
プレシーズンに入ると筋力トレーニングプログラムが増えていくが、きちんと期分け(ピリオダイズ化)して本章で紹介されているポジションやトレーニング歴などの要因を考慮しながら決めていく必要がある。なのでプレシーズン開始時には一般的準備期(GPP : general preparetion phase)を設けることが推奨されている。
一般的準備期の目的としては、一般的な身体的基盤の開発であり、この準備期の初期には、高いトレーニング量、低いトレーニング強度、筋のアンバランスの矯正や技術改善といったより多様なトレーニング手段が含まれ、一般的な運動能力やスキルを開発するように構成されている。
コンディショニングの改善も行っていきたいがコンディショニングはアスリートのパフォーマンスを最適化し、怪我や病気のリスクを最小限に抑えることであって、広い意味ではコンディショニングは通常、パワー、筋力、スピード、バランス、敏捷性、協調性、持久力など、複数の要素を含んでいる。
日本ではコンディショニング=体の調子を整えると解釈されているように感じるが、本章では前述した広い意味で使用されている。また、チームのプレースタイルを確立するために必要な戦術トレーニングの考え方なども併せて紹介されている。
プレシーズン中の負荷はシーズンの試合より高く設定すべきである。ウエイトトレーニングにおいてはセット数、反復数、重量などの外的負荷により評価可能ではあるが、心拍数や選手の主観的運動強度などを用いて内的負荷の評価も行いトレーニング計画の調整を行うようにする。
プレシーズンの成功の定義は難しく、トレーナーやスタッフとしては傷害の発生率を低下させ身体的パフォーマンスの向上という二つの領域のもとで評価していくといいだろう。
第22章 個人競技における試合のためのピーキング
試合に向けパフォーマンスの最大化することをピーキングと言われている。そして、そのピーキングに向けてトレーニング負荷を落としていくことをテーパリングと呼ぶ。
本章ではフィットネス-疲労理論を用いて注意点とともに紹介されている。テーパリングは単純に言えばトレーニングボリュームを落としていき心身ともに疲労を回復させフィットネスレベル(パフォーマンス)を向上させることではあるが、そのプレテーパリング期のトレーニング負荷やボリュームによる疲労の蓄積度合いにもよってテーパリング期間を考慮しなければならない。
テーパリングの際に考慮するべき条件が挙げられており、ここではトレーニング時間や頻度、強度をもとに説明されている。
テーパリング期間が長すぎるとディトレーニング(脱トレーニング)が起こってしまう可能性がある。また急激な負荷の減少はパフォーマンスの低下を招く恐れがあるので、強度や頻度はある程度維持をしながら、約2週間程度をかけてテーパリングを行なっていく必要がある。
私はストレングスに関わっているので筋力トレーニングプログラムを計画する際は、テーパリング期間前に一度maximal strength期をもうけ最大出力を上げてテーパリング期に徐々に移行するように計画を行なっている。
第23章 シーズン中におけるコンディションの維持
コンディショニングを維持するための計画立案について気をつけなければならない、シーズン中のトレーニングにおける10の原理が紹介されている。内容については本書にてご確認していただきたい。
- トレーニングは効率的に
- トレーニングはシンプルに
- 筋力は土台である
- 現状維持ではなく、常に改善をめざす
- 目的を鮮明にする
- 最大レベルより少し低い閾値レベルでトレーニングする
- アスリートを正しくコーチする
- バリエーション
- トレーニングブロックを作成し、負荷をかけない週を設定する
- 最大筋力への到達ではなく、潜在能力の向上を目指す
シーズン中は適切なトレーニング負荷やボリュームを見極めなければならない。軽すぎるトレーニングでは体に十分な適応は見られないだろうし、反対にキツすぎるトレーニングでは怪我やオーバートレーニングを招きかねない。ここではトレーニング負荷を増減させるための指針が紹介されている。
たとえシーズンを通して筋力が維持できたいたとしても、疲労が蓄積されていくとパフォーマンスは低下していくだろう。なので、筋力維持ではなく向上を狙ってメニュー組みをしていかなければならない、これにはもちろん疲労度をきちんと管理することが重要である。
本書では紹介されてはいないが、疲労度を確認するにはアスリートの自己申告による指標(ASRM:Athletes Self-Report Measures)を用いて判断するのがいいだろう。これにはProfile on Mood States(POMS)、Recovery-Stress Questionnaire for athletes(RESTQ-Sport)というものがあるが、日本語版はないようである。
その他にも、疲労度を確認する手段として、以下の3つが挙げられる。
1. 外部負荷(例:カウンタームーブメントジャンプ)
2. 内部負荷(例:心拍数、RPE(自覚的運動強度))
3. トレーニングの反応(ポジティブまたはネガティブな適応など)
第24章 ハイパフォーマンススポーツにおける効果的なリカバリー
リカバリーをするにあたって、まず疲労を理解する必要がある。代表的な生理学的反応はな、運動後にくる遅発性筋肉痛(DOMS)である。
新規の運動や慣れない運動によって運動誘発性筋損傷(EIMD)は起こり、一時的な筋力の低下、遅発性筋肉痛(DOMS)や筋肉の強張りによる関節可動域の低下などを引き起こす。
遅発性筋肉痛(DOMS)は、繰り返し行っていくことで筋損傷や痛みは軽減されていくと言われている。なので、前章の話にはなってくるが、シーズン中において慣れない運動を取り入れることは新しい刺激を入れることにもなるが、運動誘発性筋損傷(EIMD)によるパフォーマンス低下のリスクも考慮しなければならないということになる。
また、身体的な疲労だけでなく精神的な疲労も考慮しなければならない。
本章では、リカバリー戦略が多く紹介されている。
✔︎まとめ |
本書は373ページとボリュームがあり、かなり読み応えがある内容となっていました。
エビデンスに基づいたトレーニングの評価や方法、計画といった内容が紹介されており、主に指導者向けの内容のようです。
障害から回復、評価や育成、強化など多方面にわたって解説してあります。順番に読み続ける必要はなく、どの章から読んでも内容がわかるようになっており、それぞれの章がすぐに役立つ実用的な内容となっています。
✔︎書籍情報 |
【書籍名】ハイパフォーマンスの科学 トップアスリートをめざすトレーニングガイド
【著者名】David Joyce,Daniel Lewindon
【出版社】ナップ
【出版日】2016/10/27
【頁 数】373ページ
【目 次】
PART I 強いアスリートの育成
第1章 運動能力の評価
第2章 若年アスリートの育成
第3章 動きの効率を高める
第4章 コアの安定性と強化
第5章 柔軟性の最適化
第6章 トレーニングに対する反応のモニタリング
第7章 けがをしたアスリートのリトレーニング
PART II 競技能力の向上
第8章 ウォーミングアップとクールダウンをカスタマイズする
第9章 運動制御の調整
第10章 爆発的なパフォーマンスのための筋力の活用
第11章 筋力をスピードにうまく転換する
第12章 跳躍と着地のトレーニングの最適化
第13章 敏捷性(アジリティ)の向上
第14章 無酸素性パワー発揮
第15章 繰り返しのパフォーマンスのための持久力の獲得
第16章 有酸素性能力の強化
第17章 最適で効果的なクロストレーニング法
PART III パフォーマンスの発揮
第18章 パフォーマンスプログラムの計画
第19章 エネルギーに特化したプログラムデザイン
第20章 干渉作用の最小化
第21章 チームスポーツにおける最適なプレシーズントレーニング
第22章 個人競技における試合のためのピーキング
第23章 シーズン中におけるコンディションの維持
第24章 ハイパフォーマンススポーツにおける効果的なリカバリー