野球選手のための動体視力トレーニング ─ 中枢視から周辺視まで“見る力”を鍛える ─

コンディショニング

まずは【結論】です。

野球のパフォーマンスを高めるには、筋力や技術だけでなく、「見る力」=視覚能力を鍛えることが極めて重要です。

特に、中央視・眼球運動(追従・跳躍)・周辺視野の使い分けは、バッティング・守備・走塁といった多くのプレーに直結します。

視野の構造を正しく理解し、科学的に効果が証明されたシンプルなトレーニングを導入することで、競技力の土台を底上げできます。

トレーニング方法のみを知りたい方はこちらをクリック。

さらに器具を使った、より効果的なトレーニング方法を知りたい方は、以前のブログで詳しく紹介していますので、ぜひこちらをご覧ください。
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動体視力トレーニングのやり方と効果的な鍛え方|競技別・目的別に紹介
動体視力は「才能」ではなく、鍛えることができる力です。打球への反応、パスの読み、相手の動きへの反応——一瞬の判断が勝敗を...

🧠【視野の分類と役割】

人間の視野は中心から外側にかけて段階的に機能が変化していきます。

以下は、視野を6つに分類し、それぞれの角度範囲と一般的な機能・役割を整理した表です。

範囲

視野角度

一般的な機能・役割

中心視野

(Central Vision)

0°〜5°

視力が最も高く、文字の読み取りや細部の識別、色の認識など精密な視覚処理を担う。
注視点の処理に使用される。

準中心視野

(Paracentral Vision)

5°〜8°

中心視に隣接し、比較的鮮明に見える。
対象の輪郭や動きの微細な変化の検出に有効。

黄斑視野

(Macular Vision)

~18°

中心視+準中心視を含む広めの高精度領域。
形状、色、物体の識別能力に優れ、日常生活における認知・判断に重要。

近周辺視野

(Near Peripheral)

~30°

中心から離れるにつれ解像度は低下するが、周囲の変化や動きにすばやく気づくのに役立つ。
視野の注意移動の起点となることが多い。

中周辺視野

(Mid Peripheral)

~60°

空間認知、姿勢制御、周囲の構造や環境の把握に関与。
歩行や移動時の安全確保に重要な役割を果たす。

遠周辺視野

(Far Peripheral)

~110°

最も外側の視野。動きへの敏感な反応性に優れ、危険察知や空間全体の警戒機能を担う。
視覚的注意の喚起に寄与。



✅補足ポイント

🔸 視野は“入力機能”だけでなく“注意の分配”にも影響する

私たちが持つ視野(視界)は、単に「見える範囲」を決めるだけでなく、「何に気づくか」という注意の切り替えにも大きく関わっています。

周辺視野

  • 周辺視野(中央から外側のぼんやり見える部分)は、細かく情報を処理するのは苦手です。

  • しかし、これは周りの気配や動きを察知し、「あ、何か動いた!」と意識を向ける注意のスイッチ役としてとても重要です。

  • サッカーやバスケで、ボールを見ながらも「横のディフェンスの動きに気づく」のは、この周辺視野のおかげです。

アインシュター博士
アインシュター博士
つまり“見る”だけでなく、“気づく”ことにも視野が深く関与しておるんじゃ。

🔸 見る場所によって「細胞の役割」が違う

目の奥にある網膜(フィルムのような部分)は、見る場所によって使っている細胞の種類が違います。例えるなら、カメラのレンズの役割分担です。

  • 中心視(中央をはっきり見る部分)には、錐体細胞という「色や細かい文字」を識別する細胞が集中しています。スマホの文字や、教科書の漢字を読むのに使います。

  • 周辺部(外側をぼんやり見る部分)には、桿体細胞という「暗いところや動き」を感知する細胞が多くあります。視野の外側ほど「動き」に強く、色や形は曖昧になります。

アインシュター博士
アインシュター博士
暗い夜道で何かの“動き”に気づくのは、色や形が曖昧でも動きに強い周辺視の働きのおかげじゃ。

🔸 年齢や疲労、ストレスで視野の感度が変化する

  • 周辺視野は、特に疲労、ストレス、緊張といったコンディションの変化の影響を受けやすいことが報告されています。

  • 大舞台で緊張すると視野が狭くなる(周りが見えなくなる)のは、このためです。

→ したがって、視野を良くするには、トレーニングだけでなく、十分な睡眠やリラックスといったコンディション管理も非常に大切です。


🔸 視野のトレーニングは「目的に合わせた刺激」が基本

視野を鍛えるには、「どの視野の機能を高めたいか」によって刺激の与え方を変えるのが基本です。

目的の視野 トレーニングの例
中心視を鍛えたい 対象の細かい文字や形をじっくり注視し、識別する課題(例:瞬間視、トラッキング)
周辺視を鍛えたい 中央を注視したまま、周囲での光や色の変化を素早く捉える課題(例:ライト反応、ペリフェラルビジョン)

🔸 視野の理解は「見る力を鍛えるだけでなく、見る戦略を作る」ためにも役立つ

  • 視野の理解は、単に「目を良くする」ためだけでなく、「試合中に、どこに目を向けるべきか?」という戦略を作るためにも役立ちます。

  • 「どの範囲を、どんな目的(細かい情報か、動きの察知か)で使うか」を理解することが、視覚トレーニングの最も重要なポイントです。

  • 指導者にとっても、この知識は選手の視野を最大限に活かすためのトレーニングの引き出しを増やすツールになります。


🎯【すぐに実践できる!視覚トレーニングの具体的方法】

「顔は動かさず、目で追う・切り替える」がすべての基本です。


🏃‍♂️① サッケードトレーニング(Saccadic Training)

目的: 複数の対象へ視線を素早く・正確に移動させる力をつける

✅ やり方:「指 or ペンのサッケード」

準備するもの: 自分の指 or ペン 2本

1.両手を顔の正面、肩幅程度に構える(前ならえの姿勢)

2.左右それぞれの指(またはペン)に目印(シールやマーク)を付けておくとより効果的

3.顔を動かさず、視線だけを左右の指へ1秒ごとに切り替える

4.30秒×3セット、慣れたらテンポを上げたり、上下・斜めの配置でも行う

🧠 評価・観察ポイント

•スムーズに止まれるか?

•苦手な方向があるか?(特に斜め)


👁‍🗨② スムースパスートトレーニング(Smooth Pursuit Training)

目的: 動くものをスムーズに目で追う力を鍛える

✅ やり方:「ペン or 指を使った追跡」

準備するもの: ペン or 指(目印をつけてもOK)

1.パートナーまたは自分で、顔の正面30cmほどで対象を持つ

2.ゆっくりと左右(30〜50°/秒)に動かし、目だけで追う(顔は固定)

3.左右 → 上下 → 斜め(8方向) → 円を描く順に行う

4.各方向20秒ずつ×2セット

🧠 ポイント

•速くしすぎるとサッケード(跳躍眼球運動)になるため注意

•苦手な方向は重点的に行うと◎


🚶‍♂️③ インフィニティウォーク(Infinity Walk)

目的: 視覚、体幹、注意力の同時活性化

参考文献: Schoen(2007)

✅ やり方:「コーンを使った8の字ウォーク」

準備するもの: コーン2つ(1.5〜2m間隔)と注視するターゲット(壁のマークなど)

1.2つのコーンの間を8の字に歩く(∞のように)

2. 歩いている間、正面のターゲットから目を離さない

3.時計回り→反時計回りを交互に、各30秒×2セット

4.慣れたら「歩きながら数字を言う」「手を使う」など複合タスクもOK

🧠 ポイント

•歩行中に視線が逸れないか確認

•頭がブレやすい選手は体幹の安定性トレーニングと併用

助手
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字幕を日本語に設定してみてください。


🎯④ 動的視力トレーニング(Dynamic Visual Acuity Training)

目的: 動いているものの中の情報を読み取る能力を高める

参考文献: Deveau et al.(2014)

✅ やり方:「カラーボールで数字読み」

準備するもの: カラーボール(100均OK)に数字・記号を書く、パートナー

1.パートナーが3〜5m離れてボールを左右に動かしながら投げる

2. 投げられたボールを見て、色や書かれている文字・数字を読み上げる

3.スピードや距離を調整しながら5〜10球×2セット

✅ 1人でもできる方法:

•YouTubeで「動く文字」などの動画を再生して文字を読み取る

•鏡の前で自分の指を動かし、反射像を追いながら読み取る

🧠 ポイント

• ただ見るだけでなく、「見た内容を声に出す」ことで処理スピードも向上

•回数を記録して成長を可視化すると習慣化しやすい


📋トレーニング導入の目安

トレーニング名

目安時間

実施頻度

サッケード

約3分

週2〜3回

スムースパスート

約3分

週2〜3回

インフィニティウォーク

約5分

週2回

動的視力

約5分

週1〜2回


🔚補足アドバイス

•どのトレーニングも「速くやるより、正確にやる」が基本

•苦手な方向を記録して「個別の課題に対して重点練習」ができるとより効果的

•体幹や呼吸が安定しないと視覚が乱れるので、姿勢・緊張感のチェックも忘れずに


【おわりに】

視覚は、生まれ持った才能ではなく鍛えることができる能力です。

特に、野球のような瞬時の判断が求められる競技において、視覚トレーニングは「隠れた武器」として非常に大きな差を生みます。

まずは、できる範囲から1日5分の実践から始めてみてください。

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