スポーツにおける子供の成功:早すぎる専門化は本当に良いのか?

コーチング

多くの親は、子供がスポーツで輝くことを夢見ています。

しかし、その夢を叶えるために、本当に適切な方法を選んでいるでしょうか?

Jamie French、Scott Grace、Jenny Harris、そしてDr. Matt Longが発表した最新の研究では、若い選手の成長に関する誤解と、より良い指導方法について詳しく解説されています。

この記事では、子供の健全な成長を促しながら、早期専門化によるリスクを回避するための具体的なヒントを紹介します。

あなたの子供がスポーツを通じて健康的に、そして最大限の可能性を発揮できるよう、一緒に成功への道を歩みましょう!

長期的なアスリートの成長

Bailey(2012)[2]は、「子どもは小さな大人ではない」という考え方が、アスリート育成の基本であると指摘しています。

大人は競技特化したスキルを磨くのに対し、子供はまずスポーツ全般に共通する基本動作を身につけるべきです。

たとえば、走る・跳ぶ・投げる・アジリティ・バランス・コーディネーションといった基礎スキルが重要になります。

この違いは、次の3つの観点で子供の成長に大きく影響します。

1. 生理学的成長

2. 心理学的発達

3. 教育学的影響

1. 生理学的成長

子供の身体発達は、一貫して成長するのではなく、「ストップ・スタートのパターン」で進行します。

年齢

特徴

3〜6歳(就学前)

急速な身体成長と脳の発達

6〜12歳(学齢期)

ゆっくりとした身体成長と着実な脳の発達

12〜17歳(思春期)

急速な身体成長(特に前半)、その後安定する

17歳以上(成人初期)

身体の成長が遅くなり、安定した脳の発達

特に、無酸素性能力(短時間の強い運動の能力)は、筋肉量が少なく、解糖能力が低いため、成人や青年と比べて低い傾向にあります。

さらに、骨の石灰化には長期間かかるため、筋肉に比べて腱や靭帯の成長は遅く、神経系の発達も未熟です(Bar-Or and Rowland 2004)。

2. 心理学的発達

子供の記憶力は大人に比べて未発達であり、情報処理の速度も遅くなります。

EwingとSeefeldt(1992)の研究によると、10〜18歳の26,000人の子供たちがスポーツを続ける最大の理由は「楽しいから」というものでした。

また、Whiteheadの研究では、

若い子供は、勝つことよりも環境に適応し、スキルを向上させることに興味がある」と報告されています。

しかし、成長するにつれて「競争」が強調されることで、「勝つことが重要」という考えに社会的に影響されるようになります。

このため、コーチや親が「勝利よりも成長のプロセスが大切」だと伝えることが重要です。

3. 教育学的影響

子供の学習スタイルは、大人とは異なります。

Fleming(2012)のVARKモデルによると、子供は視覚的な情報の方が理解しやすく、聴覚的な説明だけでは十分に学べないことが分かっています。

このため、コーチは「見せて教える」ことを意識する必要があります

早熟型と晩熟型アスリートの違い

子供の成長には個人差があり、早熟型(成長が早い)と晩熟型(成長が遅い)に分かれます。

早熟・早期発育者 晩熟・後期発育者
利点 問題点
  • 同級生に対して身体的に有利
  • 早期の競技成功が可能。
  • タレントID(スカウト)の選考
  • パフォーマンスコーチへのアクセス
  • 才能の識別と選択。
  • わずかな労力で成功することができる
  • 最初は初期発育者に負けてしまう
  • 初期選考の機会を失う
  • 機会不足のため脱落する
  • 自分に資質がないと信じてしまう
問題点 利点
  • 成長が停滞する可能性。
  • 同級生が身体の成長に追いつく
  • 長期的な成功達成が難しい
  • 潜在的な決断力の欠如
  • スキル開発に焦点を当てる
  • 決断力を高める
  • 成長のマインドセットを発展させる

早期専門化のリスクと反対意見

近年の研究では、早期のスポーツ専門化がさまざまなリスクを伴うことが明らかになっています。

2000年に発表された米国小児科学会の研究では、次のような問題点を指摘し、早期専門化に反対する立場を示しました。

筋骨格系の損傷リスクの増加

成長発達の遅れ(特に骨や腱の成熟が追いつかない)

女性アスリートにおける初経の遅延

精神的なバーンアウト(燃え尽き症候群)のリスク上昇

こうしたリスクを回避するために、Istvan BayliJean Coteは、アスリート育成の長期計画として「FUNdamentals(ファンダメンタル)コンセプト」を提唱しました。

アスリート育成の5つの発達段階

BayliとCoteは、アスリートの成長を以下の5つのステップで捉えています。

1️⃣ トレーニングを学ぶ(Learn to Train)

2️⃣ トレーニングを実践する(Train to Train)

3️⃣ 試合に向けたトレーニング(Train to Compete)

4️⃣ 勝つためのトレーニング(Train to Win)

5️⃣ 再トレーニング(Re-Training)

これらのステージは、単に年齢だけで決まるものではありません

より優れたコーチは、選手の成長を総合的に評価し、適切なトレーニング環境を整えることができるのです。

適切なアスリート育成のための考え方

コーチや指導者が選手を適切に成長させるためには、次の4つの要素を考慮する必要があります。

📌 1. 生物学的年齢(年齢に対する身体の発達レベル)

📌 2. トレーニング年齢(スポーツ経験年数)

📌 3. 発達的要素(情動・社会的成熟度)

📌 4. 相対的年齢(学年の開始時期や誕生日の影響)

こうした要素を無視し、単に年齢が上だから難易度の高いトレーニングをさせる」といった方法は、選手の可能性を狭める原因となります。

コーチや指導者の役割

トレーニング年齢の概念を理解し、選手一人ひとりの成長に合わせた指導を行うことは、選手がスポーツを長く続け、競技レベルを向上させるための鍵となります。

OrlickとBotterillのベストセラー『Every Kid Can Win』では、

勝利のために子供を犠牲にすることは決して許されない」と明言されています。

つまり、短期的な成功のために無理なトレーニングを強いるのではなく、

選手の長期的な成長を支える指導こそが、本当に価値のあるアスリート育成なのです。

早熟型・晩熟型アスリートの違いと育成の視点

若いアスリートの育成において、成長のスピードには個人差があります。

しかし、しばしば晩熟型の選手(成長が遅い選手)は、早熟型の同世代の活躍に埋もれてしまい、評価されにくいという現実があります。

一方で、早熟型の選手もまた、「年齢の割に体が大きいから勝てているだけ」と単純化されてしまうケースもあります。

どちらのタイプの選手にも共通するのは、

現在の身体能力だけで判断するのではなく、長期的にどのように成長・向上できるかを重視することが重要だということです。

今後の育成方針:全体的な成長を考える

ジュニアアスリートの成長には、単なる競技スキルの向上だけでなく、身体的・精神的・社会的な発達を総合的に考慮する必要があります

ダブルオリンピックチャンピオンであるLord Sebastian Coeは、著書『Running My Life』の中で、

自身のコーチでもあった父のPeterが、「息子をアスリートとしてではなく、一人の人間として成長させようとした」と語っています。

Coe自身は10代の頃、ライバルのSteve Ovettに比べて「後期発育者」でした。

しかし、20代前半になる頃にはその差はなくなり、最終的には世界のトップレベルで戦うアスリートに成長しました。

このように、スポーツの成功は短期的な成長ではなく、長期的な視点で考えるべきものです。

また、スポーツ育成は単に競技力向上だけを目的とするものではなく、学問・情緒・社会性・精神的な成長も含めた「全体的なアプローチ」が必要です。

この点について、Professor Neil Armstrong

「スポーツは子供のためのものであり、子供がスポーツの道具にされるべきではない」

と強調しています。

私たちは、スポーツを通じて子供の成功を押し付けるのではなく、スポーツを子供の成長のための手段と捉えるべきなのです。

長期的な育成を意識した指導のためのチェックリスト

コーチや指導者は、選手の育成において「今の能力」ではなく、「将来の成長」を見据えた指導をすることが重要です。

特に、成長過程にある若いアスリートに対して、適切なトレーニングを提供できているかを見直すことが、選手の可能性を最大限に引き出す鍵となります。

以下のチェックリストをもとに、自分の指導を振り返ってみましょう。

✅ 指導内容を見直すための10のチェックリスト

1️⃣ 成長途中のアスリートに、大人向けのトレーニングを課していないか?

→ まだ発達段階にある選手に、成人向けの負荷やプログラムを課すことは、怪我や成長の阻害につながる可能性があります。

2️⃣ 無意識のうちに、高度な筋力トレーニングやコンディショニングを奨励していないか?

→ 競技力向上を急ぐあまり、年齢や成長段階に見合わないトレーニングを指導していませんか?

3️⃣ 基本的な動作スキルの習得を軽視していないか?

→ 競技スキルだけにフォーカスし、走る・跳ぶ・投げる・バランス・コーディネーションなどの基礎的な能力を疎かにしていませんか?

4️⃣ 練習量・強度・回復のバランスは適切に取れているか?

→ 練習の負荷を増やすだけでなく、適切な休息や回復の時間を確保し、オーバートレーニングにならないよう管理できていますか?

5️⃣ 指導が無意識に、選手へ過度の心理的プレッシャーを与えていないか?

→ 「勝たなければならない」「成功しなければならない」といった過度なプレッシャーをかけていませんか?

6️⃣ タイムや距離などの数値だけを重視し、動作の質(プロセス)を軽視していないか?

→ 記録の向上ばかりを求めるのではなく、正しい動作を習得し、ケガなくパフォーマンスを向上できるかに焦点を当てられていますか?

7️⃣ 選手の年齢だけを基準にトレーニングを設定していないか?

→ 年齢が上がったからといって、自動的に高負荷なプログラムに移行するのではなく、個々の成長や技術習得の状況を考慮できていますか?

8️⃣ 適切なトレーニング段階(Stage Appropriate Training)に沿った指導ができているか?

→ 各選手のトレーニング年齢(競技経験年数)や発達状況に応じた適切な負荷や練習内容を提供できていますか?

9️⃣ 大人数のグループを指導する際、個々の成長を意識しているか?

→ 集団指導になりがちな場面でも、一人ひとりの成長に目を向け、適切なフィードバックを与えられていますか?

🔟 アスリートのスポーツ以外の活動(教育・心理的な負担など)を考慮しているか?

→ 過度なトレーニングが、学業や生活習慣の乱れにつながっていないか確認し、バランスの取れた成長を支援できていますか?

長期的な成功のために

アスリートを効果的に育成し、彼らの総合的な成長を支援するには、目先の勝利にこだわるのではなく、長期的な視点で育成を行うことが不可欠です。

スポーツの指導は、単なる競技力向上だけでなく、選手が健康的に成長し、競技を長く続けられる環境を提供することが大切です。

このチェックリストを活用し、選手の将来を見据えた指導を行いましょう。

参考文献

GRACE, S., HARRIS, J., FRENCH, J. and LONG, M. (2014) Handle with care. Athletics Weekly. 23rd January. p.32-33
BAILEY, R. et al (2012) Participant development in sport and physical activity: The impact of biological maturation. Journal European Journal of Sport Science. 12 (6), pp. 515-526.
FLEMING, N.D. (2012) VARK teaching and learning styles.

参照ページ

LONG, M. and FRENCH, J. (2015) Nurturing Talent [WWW] Available from: https://www.brianmac.co.uk/articles/article197.htm [Accessed 14/2/2020]
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