FCバルセロナに学ぶ、サッカーのパフォーマンスを劇的に向上させるウエイトトレーニング完全ガイド
「もっと速く走りたい」「当たり負けしない強さが欲しい」「怪我をしにくい身体を作りたい」
サッカー選手なら誰もが抱くこの願いを叶える鍵、それがウエイトトレーニングです。今回は、世界最高峰のクラブ、FCバルセロナの選手が実際に行っているトレーニング動画を参考に、具体的なメニューとその目的を徹底解説します。
彼らがどのような意識で、どの筋肉を鍛え、ピッチでのパフォーマンスに繋げているのか。その秘密を解き明かしていきましょう。
参考動画

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爆発的なパワーと加速力を生み出すトレーニング
1. Jammer One Step Press (ジャマー・ワンステップ・プレス)
ステップを踏み込みながら、腕を爆発的に突き出すトレーニングです。- 目的:
- 爆発的な全身のパワー向上: 下半身で生み出した力を、体幹を通して上半身へスムーズに伝える連動性を高めます。
- 加速力・スプリント能力の向上: 地面を強く蹴り、腕を力強く振るスプリント動作に近い動きのため、走り出しの鋭さやトップスピードの向上に繋がります。
- 相手をブロックする強さ: ポストプレーや競り合いの場面で、相手を手で押さえる(ハンドオフ)強さを養います。
- 参考レップ数・セット数: 左右それぞれ 3〜5レップ × 3〜4セット
2. Landmine Push Press (ランドマイン・プッシュプレス)
バーベルの一端を固定し、斜め上に突き上げるトレーニングです。- 目的:
- 全身の連動性強化(キネティックチェーンの最適化): 下半身で生み出した力を、体幹を通して上半身へスムーズに伝える感覚を養います。この「力の連鎖」は、シュートやジャンプなど、あらゆる動作のパワーを向上させます。
- 肩周りのパワーと安定性: 肩への負担が少ない角度で、爆発的なプレス動作を行えます。ロングスローの際の肩の強さにも繋がります。
- 強固な体幹の安定性: 高重量を扱う際に体幹を固め、下半身からの力を逃さず上半身に伝える能力を養います。
- 参考レップ数・セット数: 左右それぞれ 4〜6レップ × 3セット
【プロのワンポイント:片手バージョンで「抗う力」をさらに強化】
より実践的で、サッカーのプレーに直結する体幹の強さを求めるなら、片手で行うバリエーションも非常におすすめです。負荷が片側に集中することで、体幹への要求が爆発的に高まります。
強力な『抗う』体幹の養成(抗回旋・抗側屈): この種目で体幹が果たす主な役割は、力を『生み出す』回旋ではなく、むしろ外部からの力に『抗う』ことです。片側からの重い負荷に対し、体幹が捻じれないように(抗回旋)、横に倒れないように(抗側屈)耐えることで、強固な”胴体の鎧”を作り上げます。この能力は、相手との接触プレーで当たり負けしない安定性や、シュート時のブレない軸の維持に直結します。
3. ヘックスバー ハーフデッドリフト & 4. ボックスジャンプ (PAPコンプレックス)
動画では、高強度の「ヘックスバー ハーフデッドリフト」の後に、爆発的な「ボックスジャンプ」を行っています。これは単なる2種目の筋トレではなく、PAP(Post-Activation Potentiation:活動後増強)という現象を狙った、パフォーマンスを劇的に引き上げるための高度なトレーニングテクニックです。
【PAP(活動後増強)とは?】
PAPとは、高強度の運動(今回の場合はヘックスバー ハーフデッドリフト)を行った直後に、神経系が興奮(活性化)し、その後の爆発的な運動(ボックスジャンプ)のパフォーマンスが一時的に向上する現象のことです。重いものを挙げた直後に、身体が軽くなったように感じ、いつもより高く跳べるようなイメージです。これにより、筋肉のパワー発揮能力をさらに引き出すことができます。
PAPトレーニングの具体的なステップ
Step 1:運動の組み合わせを選ぶ最も重要なのは、活性化運動とパフォーマンス運動が、同じような動作パターンであることです。今回の「ヘックスバー ハーフデッドリフト(股関節を力強く伸展させる動き)」と「ボックスジャンプ(股関節を爆発的に伸展させる動き)」は、まさに理想的な組み合わせです。
Step 2:重さと回数を正しく設定する
あえて可動域を制限した『ハーフデッドリフト』で行うのは、より重い重量で神経を最大に興奮させられるだけでなく、実際にジャンプやスプリントで使う関節角度を狙い撃ちし、パフォーマンスへ直結させるためです。
ここでの目的は「神経を目覚めさせること」であり、「筋肉を疲労させること」ではありません。
- 活性化運動(ヘックスバー ハーフデッドリフト)
- 強度(重さ): 最大挙上重量(1RM)の85〜95% という高重量。
- 回数: 1〜3回。神経に強い刺激を与えることだけが目的です。
- パフォーマンス運動(ボックスジャンプ)
- 回数: 3〜5回。一回一回のジャンプで、持てる力の100%を出し切る意識で行います。
活性化運動とパフォーマンス運動の間の休息時間は、PAPの成否を分ける最も重要な要素です。
- 最適な休息時間: 3分〜7分がスイートスポットとされています。
PAPトレーニングの対象者と注意点
PAPは、正しいフォームで高重量を扱えるだけの筋力と技術を持った、中級者から上級者向けのテクニックです。トレーニング初心者は、まず基本的な筋力とフォームを固めることを優先してください。 また、非常に強度の高いトレーニングのため、週に1〜2回を目安にし、体調が良い時に行うようにしましょう。体幹の安定性と回旋パワーを高めるトレーニング
5. Medicine Ball Twist Slam (メディシンボール・ツイストスラム)
ボールを頭上から身体をひねりながら、横の床に叩きつけます。- 目的:
- 強力な回旋パワーの養成: シュートやロングパス、方向転換など、身体をひねる動作のパワーとスピードを向上させます。
- 体幹の強化: 身体の軸を安定させながら、爆発的な回旋動作を行うことで、ブレない体幹を作り上げます。
- 参考レップ数・セット数: 左右それぞれ 5〜8レップ × 3セット
動画をよく見ると、選手がボールを投げる前に、トレーナーがメディシンボールを逆方向からグッと押さえ、選手はそれに抵抗するように力を入れています。選手とトレーナーの力が均衡し、動きが止まっているのが分かります。
これは「アイソメトリック(等尺性)収縮」を利用した、アクティベーションです。 アイソメトリック収縮とは、関節は動かないのに筋肉は全力で力を発揮している状態のことです(綱引きで力が拮抗している瞬間をイメージしてください)。
この静的な力の発揮によって、体をひねるための主役となる脇腹の筋肉(腹斜筋など)へ最大級の『カチッ』というスイッチを入れることができます。 この一手間によって、その後のスラム動作で動員される筋繊維の数が格段に増え、神経系も最大に興奮した状態で、より爆発的なパワーを発揮するための完璧な準備が整うのです。
6. Bungee-Resist Lateral Shuffle & Med Ball Front Twist Throw
ゴムチューブの抵抗を受けながらサイドステップし、パートナーに向かってボールを投げ返します。- 目的:
- 横方向への敏捷性(アジリティ)向上: 守備時の素早いサイドステップや、攻撃時の急な方向転換のスピードとキレを高めます。
- 実践的な体幹強化: 抵抗がある中で体幹を安定させ、さらに回旋動作を加えることで、試合中のデュエル(1対1)の場面で当たり負けしない強さを養います。
- 鋭いストッピングと切り返しの質的向上: メディシンボールをキャッチする際の衝撃を受け止め、股関節を内側にひねりながら(内旋させながら)力を吸収する動きは、鋭いストッピング(減速)能力に直結します。さらに、その吸収した力を利用して逆方向へ爆発的に切り返すための一連の動作は、股関節の力強い押し込みをダイレクトに鍛え、プレーの連続性を高めます。
- 参考レップ数・セット数: 左右それぞれ 4〜6往復 × 2〜3セット
7. Threads Push (スレッド・プッシュ)
重りを乗せたソリ(スレッド)を押して進みます。- 目的:
- 加速力とスプリントフォームの改善: 前傾姿勢を保ちながら地面を強く押し続けることで、スプリント時の加速局面のパワーを向上させます。
- 全身の筋力と持久力の向上: 下半身、体幹、上半身を同時に使い続けるため、試合終盤でも走り負けない筋持久力を養います。
- 参考レップ数・セット数: 15〜20m × 4〜6セット
怪我の予防と専門的な筋力強化
8. Nordic Hamstring Curl (ノルディック・ハムストリング)
膝を固定し、ゆっくりと身体を前に倒していくことで、ハムストリングス(太ももの裏)を強烈に刺激します。- 目的:
- ハムストリングスの肉離れ予防: ハムストリングスが伸ばされながら力を発揮する「遠心性収縮」を特に強化します。これは、スプリントのブレーキ動作や急なストップ時に最も肉離れが起きやすい局面であり、このトレーニングは怪我の予防に絶大な効果を発揮します。
- スプリント能力の向上: 強力なハムストリングスは、走る際のアクセルとブレーキの両方の役割を担い、パフォーマンス向上に不可欠です。
- 参考レップ数・セット数: 3〜6レップ × 3セット(非常に高強度なため、無理のない範囲で)
9. RDL (ルーマニアン・デッドリフト)
膝を軽く曲げた状態を保ち、股関節から身体を折り曲げるようにして、ハムストリングスと臀部(お尻)を鍛えます。- 目的:
- ハムストリングスと臀部の強化: ハムストリングス全体の筋力と柔軟性を高め、肉離れのリスクを軽減します。
- 正しい股関節の使い方の習得(ヒンジ動作): 身体のエンジンであるお尻の筋肉を正しく使えるようになることで、走る、跳ぶ、蹴るといったあらゆる動作のパフォーマンスが向上します。
- 参考レップ数・セット数: 8〜12レップ × 3〜4セット
10. Single Leg Hip Thrust (シングルレッグ・ヒップスラスト)
片足で、お尻の力を使って腰を持ち上げます。- 目的:
- 臀筋の集中的な強化: お尻の筋肉は、スプリントやジャンプのパワーの源です。片足ずつ行うことで、左右の筋力差をなくし、より効率的にパワーを発揮できるようになります。
- 走行時の安定性向上: 片足で地面を蹴るランニング動作において、軸足の安定性を高め、骨盤のブレを防ぎます。
- 参考レップ数・セット数: 左右それぞれ 8〜12レップ × 3セット
11. GHD (Glute-Hamstring Developer) Rows
GHDマシンでうつ伏せになり、体幹を水平に保ったままバーベルを引き上げる(ロウイング)トレーニングです。- 目的:
- 強力なポステリアチェーン(身体の背面)の強化: 身体を水平に保つために、臀部、ハムストリングス、背筋群といったポステリアチェーン全体が常に緊張した状態に置かれます。この状態でロウイングを行うことで、非常に強力な体幹と背中を作り上げます。
- 上半身の競り合いと空中姿勢の安定: 体幹が強力に固定されるため、より純粋に背中の筋肉(広背筋や菱形筋)を鍛えることができます。これにより、空中戦でのボディバランスの維持や、相手を腕でブロックしながらボールをキープする際の強さが格段に向上します。
- 参考レップ数・セット数: 8〜12レップ × 3セット
12. Copenhagen Plank (コペンハーゲン・プランク)
ベンチなどを使って脚を横に持ち上げ、内もも(内転筋)と体幹を同時に鍛えるトレーニングです。字幕をオン・日本語に設定してみて下さい。
- 目的:
- 内転筋の強化と怪我予防: サッカーで最も多い怪我の一つである「股関節周り(特に内転筋)の肉離れ」を予防するために非常に効果的です。
- キック力と方向転換の安定性向上: 軸足の内転筋が安定することで、より強く正確なキックが可能になり、素早い切り返しの動作もスムーズになります。
- 参考レップ数・セット数: 左右それぞれ 20〜30秒キープ × 3セット
まとめ
プロサッカー選手が行うウエイトトレーニングは、単に筋肉を大きくするだけでなく、一つ一つの種目がピッチ上での具体的な動きに直結していることがお分かりいただけたでしょうか。- 爆発的なパワー
- ブレない体幹
- 怪我をしない身体
注意: これらのトレーニングは非常に強度が高いものも含まれます。いきなり真似をするのではなく、まずは正しいフォームを専門のトレーナーに指導してもらうことをお勧めします。自分のレベルに合った重量や回数設定で、安全にトレーニングに取り組みましょう。
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