試合で勝つための「脳」を作る:デュアルタスク・トレーニングガイド

サッカー

1. デュアルタスク(二重課題)とは何か?

スポーツにおけるデュアルタスクとは、「2つ以上のことを同時に行う状態」を指します。

これには大きく分けて2つのパターンがあります。

デュアルタスク(二重課題)
  • 「体 + 頭」: ドリブルをしながら、味方の位置を把握してパスコースを判断する

  • 「体の部位を別々にコントロール」: 右手でボールをコントロールしながら、左手で相手を抑え、下半身で複雑なステップを踏む。

なぜこれが必要なのか?(脳の「コップ」理論)

人間の脳が一度に処理できる「注意の資源」には限界があります。これを「コップ」に例えてみましょう。

  • 初心者: ドリブルをするだけで脳のコップが満タンになります。周りを見る余裕(水を入れる隙間)はありません。

  • 熟練者: ドリブルが「自動化(無意識にできる)」されているため、コップの底に少ししか水が溜まりません。残りの大きなスペースを「戦術的な判断」や「相手の動きの監視」に使えるのです

試合という極限状態では、この「コップの空き容量」が勝敗を分けます


2. 自分のレベルを知る:計算式と「コスト」の考え方

デュアルタスクを行うと、必ずどちらかのパフォーマンスが落ちます。

この低下分を「デュアルタスク・コスト(DTC)」と呼びます。

計算してみよう(タイムを競う種目の例)

例えば、20メートルのドリブル走のタイムを計ります。

  1. 単一課題(ST): 普通にドリブルする → 10秒

  2. 二重課題(DT): 「100から3を順に引き算」しながらドリブルする → 12秒

この場合、タイムが2秒遅くなったので。

計算式は以下の通りです。

※この選手の「コスト」は20%です。

判定の目安

  • 10%以下: プロ・エリート級。脳の使い方が非常に効率的です

  • 20〜30%: 一般的。プレッシャーがかかるとミスが出やすい状態です。

  • 50%以上: 要改善。実戦では頭が真っ白になりやすい傾向があります


3. 実践!能力を向上させる「3ステップ・ロードマップ」

能力を伸ばすには、ただ闇雲に難しいことをするのではなく、段階を踏むことが重要です。

【ステップ1:スキルの自動化】(週3回 / 各5分)

まずは、メインとなる技術(ドリブル、パス、ステップなど)を「目をつぶってもできる」くらいまで反復します。

無意識に体が動くようにならない限り、次のステップへ進んでも効果は薄いです。

【ステップ2:干渉負荷の導入】(週3回 / 各10分)

自動化した動きに、「頭の体操」または「別の体の動き」を加えます。

  • 頭の負荷例: 100から3を順に引き算(100, 97, 94…)・コーチと会話するなど

  • 体の負荷例: バスケットボールをしながらテニスボールをトスする。

バレーボールの例(ボールキープ・パス): 3人1組で、1人があらかじめボールを1個「保持(抱えた状態)」してパス練習をします。「ボールを持っている間はトスができない」という制約をかけることで、自分にボールが飛んできた瞬間に「今持っているボールを誰かに預ける」という別の動作を強制的に介入させます。

【ステップ3:実戦的な反応】(練習の最後 / 15分)

予測できない外部からの刺激に反応する練習です。

  • 例: 猛スピードで走りながら、コーチが上げた「旗の色」に応じて瞬時に進路を変える。

  • 例: 3つのゴールに番号を振り、シュート直前に言われた番号のゴールを狙う。


4. ドリル集(例)

① バスケットボール:テニスボール・ロード

  • やり方: 片手でバスケットボールをドリブルし、もう片方の手でテニスボールを上に投げてキャッチし続けます。

  • 狙い: 「右手と左手で全く違う動き」を脳に強制させ、ハンドリング能力と視野を同時に鍛えます。

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② サッカー:リアクション・パス・グリッド

  • やり方: 2人1組で対面パスを行いながら、足元や周囲にLEDターゲット(BLAZEPODなど)を配置します。パスを交換し続けている最中に、特定の色のライトが点灯したら、パスの合間を縫ってそのターゲットを足で踏み(またはタッチし)、すぐさま元のパス交換に戻ります。
  • 狙い: 「パス(技術)」を継続しながら、「光(外部環境の変化)」を常に視野の端で捉え、瞬時に「移動(判断と実行)」を行う力を鍛えます。 試合中に「ボールだけ」にならず、周囲の状況がパッと変わった瞬間に体が勝手に反応できる状態を目指します。
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5. 継続のためのガイドライン

  • 頻度: 週3回、10〜15分で十分です。脳は非常に疲れやすいため、短時間で集中して行いましょう。

  • 期間: 最低8〜12週間は続けてください。5週間を過ぎたあたりから、脳の神経ネットワークが強化され、実戦での「余裕」を実感し始めます 7

  • 怪我防止の効果: このトレーニングは前十字靭帯(ACL)の怪我や、脳振盪からの復帰にも極めて有効です。「考えながら動く」力が戻っていないと再負傷のリスクが高まるため、リハビリの最終段階としても必須です。

コーチへのアドバイス

選手がミスを始めたら、それは「脳に負荷がかかっている証拠」です。

ミスを叱るのではなく、負荷のレベルが適切かどうかを見極め、「成功率が80%くらい」になるよう難易度を調整してあげてください。

このガイドを参考に、今日から「脳」のトレーニングを始めてみましょう。

数ヶ月後、あなたの選手はコートの上で、誰よりも「冷静で賢い」プレーヤーに進化しているはずです。

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