アスリートの成長を支え、パフォーマンスを向上させるために、コーチと選手の間に効果的なコミュニケーションが必要不可欠です。コーチは、選手を動機付け、適切なトレーニング方法を伝え、競技力を向上させる役割を担っています。 しかし、その情報がアスリートに正しく伝わり、理解され、受け入れられなければ、適切な行動にはつながりません。 つまり、コミュニケーションの質が、選手の成長や競技成績に大きな影響を与えるのです。
Crookes(1991)[1]は、コーチがアスリートと効果的にコミュニケーションをとるために、次のような問いかけをするべきだと述べています。
• 選手は自分の話に注意を向けているか?
• 自分の説明は、選手にとって理解しやすいものになっているか?
• 選手は、自分の伝えたことを正しく理解しているか?
• 選手は、コーチの言葉を信頼し、受け入れているか?
これらの要素を意識することで、指導の質を高め、選手との信頼関係を強化することができます。
非言語コミュニケーションの重要性
コミュニケーションは、単なる言葉のやり取りだけではありません。コーチが話しているとき、アスリートは聞き、理解しようとしますが、それだけではなく、非言語的な要素も大きな役割を果たします。表情、ジェスチャー、姿勢、視線、笑顔、アイコンタクトなどの「非言語メッセージ」は、会話の流れや相手の理解度を示す重要なサインです。
例えば、選手の表情は、コーチへのフィードバックとなります。 退屈や無関心のサインとして、目がぼんやりしている、視線が下を向いている、ソワソワと落ち着かない動作をしている などがあります。一方で、眉を完全に上げると「信じられない」、半分だけ上げると「困惑している」 ことを示します。また、選手全体の姿勢からも、コーチに対する態度やその時の気分を読み取ることができます。コーチは、こうした非言語的なサインを敏感にキャッチし、適切に対応することが求められます。
コミュニケーションを妨げる要因
Crookes(1991)[1]によると、コーチと選手の間でコミュニケーションがうまくいかない原因には、以下のようなものがあります。
• 選手の認識がコーチと異なる
• 選手が話を最後まで聞かずに、自分なりの結論を出してしまう
• 選手が、コーチの伝えたい内容を理解するのに必要な知識を持っていない
• 選手が、話を聞く動機や、伝えられた情報を行動に移す意欲に欠けている
• コーチが伝えたいことを、明確に表現できていない
• 感情がコミュニケーションに影響を与え、誤解を生む
• コーチと選手の性格が合わず、信頼関係が築けていない
これらの要因は、コーチから選手への一方的な伝達だけでなく、選手からコーチへのフィードバックの場面でも同じように働きます。したがって、コーチは選手との相互理解を深めるために、コミュニケーションのプロセスを慎重に考える必要があります。
効果的なコミュニケーションのポイント
Crookes(1991)[1]は、コーチが選手とコミュニケーションをとる前に、次のポイントを考慮すべきだと述べています。
• なぜ(WHY)伝えるのか?
• 誰に(WHO)伝えるのか?
• どこで・いつ(WHERE & WHEN)伝えるのが最適か?
• 何を(WHAT)伝えるのか?
• どのように(HOW)伝えるのか?
さらに、効果的なコミュニケーションには、以下の6つの要素が含まれるべきだとしています。
要素 |
説明 |
---|---|
明確さ(Clear) |
情報を明確に伝える |
簡潔さ(Concise) |
余計な説明を省き、要点を伝える |
正確さ(Correct) |
誤解を招く情報を避け、正しい内容を伝える |
完全性(Complete) |
部分的な情報ではなく、必要な情報をすべて伝える |
礼儀(Courteous) |
礼儀正しく、対立を避ける |
建設的(Constructive) |
否定的にならず、前向きなフィードバックをする |
ポジティブなフィードバックを心がける
コーチがアスリートにフィードバックを与えるとき、「何を改善すべきか」だけでなく、「何が良かったのか」も伝えることが重要です。 まずはポジティブな点に触れ、その後で具体的な改善策を提示することで、選手のモチベーションを高め、前向きな変化を促すことができます。
結論
Crookes(1991)[1]によると、コーチは以下の点を意識することで、選手とのコミュニケーションを改善できるとしています。
• 言語・非言語の両方のコミュニケーションスキルを高める
• コーチング中に、常にポジティブなフィードバックを意識する
• すべての選手に対して公平に接し、適切な指導を行う
• 選手の思考・学習スタイルに応じたコミュニケーションを工夫する
• 話すだけでなく、選手の声にも耳を傾ける
コミュニケーションスキルを向上させることで、コーチと選手の関係はより強固なものとなり、指導の効果も飛躍的に高まるでしょう。
1.CROOKES (1991) Complan Column. Athletics Coach, 25 (3), p. 13
関連引用
MAGUIRE, P. and PITCEATHLY, C. (2002) Key communication skills and how to acquire them. BMJ, 325 (7366), p. 697-700
HARGIE, O. (1997) The handbook of communication skills. Psychology Press
参照ページ
MACKENZIE, B. (1997) Communication Skills [WWW] Available from: https://www.brianmac.co.uk/commun.htm [Accessed 1/3/2020]